おんせん県を陰で支える大工場
静かな里山の風景が広がる犬飼町に、平均月給が9万円を超える事業所があります。川沿いの緑の中、突然現れた工場に一歩踏み込むと、大きな機械がうなりをあげて、活気にあふれていました。
A 型事業所、合同会社ロイヤルウォッシュは、23名の障害者を雇用するクリーニング工場です。地元でリネンサプライ業を34年間続けるリファイン大分の第一工場を移管する形で、2013年に設立されました。
扱う洗濯物のほとんどが、ホテルや旅館のリネンです。おんせん県、おおいた、の異名で知られる大分県。営業エリアは、別府や、佐伯、由布院から、県境を越えて、くろかわ温泉まで。約170施設から請け負っています。そして、「最近、問い合わせが増えてきたのは、高齢者向けグループ ホームの私物クリーニングですね」と、副代表の宮迫奈緒美さん。ちなみに、この工場で1日に処理する洗濯物の総量はおおよそ2万枚。10トンにも上るのだとか。それだけに、「まだまだ、採用したいですね。あと10人くらい、フルタイムで働けるかたが欲しいです」と、さらなる障害者雇用にも意欲的です。
給料が、利用者の生活を変えていく
立ち上げから、苦労らしい苦労の記憶がない、と笑う宮迫副代表。作業が多岐にわたり、本人の向き不向きに合わせて適材適所を探せるのは、クリーニング業の利点としたうえで、「福祉面のサポートに関して、正直、うちは手薄だと思います。仕事面に関しては、休みや、遅刻にはかなり厳しいです。でも、意識の高いベテランのパートさんたちと一緒になって働くうちに引き上げられるんでしょうか。最初は4時間勤務だった利用者さんが、今では、フルタイムで働いていたり、精神障害でも休むかたはほとんどいません。むしろ、繁忙期には、日曜出勤にも応じてくれたりして、助けられていますね。本当に」。
利用者のひとり、上野博孝さんは、いくつかの職場を経験してきましたが、今の職場が、「一番合っている」と言います。これまでは B 型事業所で給料は3万円ほど。しかし、同じ時間で倍は稼げるようになり、収入と生活が安定しました。十年越しの夢だったエレクトーンも購入し、現在の腕前は7級。将来、エレクトーンの専門学校に通いたい、と定期積立も始めているそうです。
仕事を通じた福祉事業だからできること
宮迫奈緒美さんの兄で、ロイヤルウォッシュと、リファイン大分の代表を兼務する宮迫賢太郎さんに、目標とするところについて伺いました。
「私たちにできることは、仕事を通じた支援なので、生活部分は専門的なかたに委ねたいと思っています。では、何ができるかといったら、稼ぐ能力を身につけていただくことと、それに見合った賃金をちゃんと払うこと。この点に特化して、しっかりとやっていきたい」と、その役割を捉えています。
そもそも、ロイヤルウォッシュの設立には、賢太郎さんの苦い経験がありました。10年ほど前のことです。
耳の不自由な女性が、ハローワークの紹介でリファイン大分にやってきました。仕事上の問題は何もありませんでしたが、休憩時間などで周囲とのコミュニケーションがうまく取れずに結局、半年ほどで退職。以来、「もっと、何かできることがあったんじゃないか」と、ずっと引っかかっていたそうです。あるとき、 A 型事業所を企業としておこなっている、知り合いの弁当店を視察する機会を得ました。そこで湧き起こったのが、「支援員が一緒に付いて働けば、むしろ企業のメリットを生かして、障害のあるかたにも働いてもらえるのではないか」との確信でした。
今年の7月、サムエなどの畳みを自動化するガウンフォルダーを、当財団の助成を得て導入しました。本格稼働はこれからですが、手の空いた人員を、需要が増えつつある私物クリーニングへ再配置すれば、さらなる給料アップが目指せます。できたら、「利用者さんにとって交通の便の良いところに、もうひとつ A 型事業所を作りたい」。副代表は、そう最後に顔をほころばせました。