2024年度 障がい者の働く場パワーアップフォーラム 東京会場いま改めて「働く意味」を問う
2024年07月05日 (金)
東京都立産業貿易センター浜松町館
主催者あいさつ 多くの方と一緒に、障がいのある方の 「働く意味」を改めて考えましょう
(公財)ヤマト福祉財団 理事長
山内 雅喜
2024年度のパワーアップフォーラムは、東京・大阪の両会場を、多くの方に直接来場・参加いただくリアル会場開催として実現できました。この酷暑のなか、みなさんに会場まで足を運んでいただけるのか不安でしたが、会場の奥まで参加者で一杯になっている様子を見て安心すると同時に、みなさんの熱意に心が震えています。
先日、最高裁で旧優生保護法に関する大きな判断が示されました。また、差別解消法における合理的配慮が義務化されたことも、みなさんはご存じでしょう。障がいのある方と福祉関係者を取り巻く環境はどんどん変化し、それとともに多くの方が障がい者福祉に関心を持ち、現場に立つみなさんの対応もより注目されるようになっています。その視線の先に、しっかりとした考えのもと、障がいのある方々と真摯に向き合うみなさんの姿があれば、人々の信頼もより高まっていくはずです。
本日は、障がいのある方の「働く意味」を改めて問いながら、現在の環境下で、私たちが何を大切にし、行動していくべきなのかを一緒に学んでいきます。そしてこのフォーラムが、みなさま同士の繋がりを築く新たなきっかけに、明日を頑張る力の一助になってくれたら、と願っています。
基調講演 「働いて暮らす」を実現する
埼玉県立大学 名誉教授
朝日雅也氏
私は大学で教育研究に携わっていますが、もともと障がい者職業カウンセラーとして障がいがある方が企業で働く支援現場にいました。これらの経験から「障がいのある方が働いて暮らす」には、いろんな課題があるとわかったのです。
その一つが「ノーマライゼーションの実現が遅れた職業の世界」です。多くの企業は「うちは障がいのあるなしに関係なく採用を考えます。仕事ができればそれでいい」と話します。一見理解ある言葉のようですが、じつは「仕事ができなければだめ」と、職業世界から排除しているようにも受け取れるのです。大事なのは「ともに働き合う」こと。実際に人と人が向き合うことで、互いの苦労が分かるし、同時に働く喜びを分かち合うこともできるのです。
では、福祉に携わる私たちはどうでしょう。いつの間にか就労制度に合わせた働き方を障がいのある方に強いてはいませんか。たとえば「生活が大事で、働くことは2の次。病気が治ってから働けばいいじゃないか」という人がいます。でも私たちは、生活を豊かにするために働いているのであり、それは障がいのある方も同じはずです。また、重い障がいのある方を「彼は生きていることが仕事だから」と言う職員もいましたが、周りが勝手に決めつけて良いのでしょうか。人それぞれにできる働き方、支援の方法があるはずです。私たちが行っている「障がいのある方が仕事に就くための職業訓練や支援」は「職業世界から排除され、失われた権利の回復」でもあります。大切なのは「その人が望む働き方を選び、それによって暮らしていける支援」です。
障がいのある方たちが「働いて暮らす」には、本人が仕事に慣れると同時に、職場が慣れることも必要です。職場定着には、職場がその人の働き方に定着しなければなりません。これは地域での暮らしも同じです。社会がその人の思いに近づいていく「相互性」こそが「ともに働き合う」「働いて暮らす」を実現する突破口になる、そう私は考えています。
時流講座 障がいのある人の今をどう読むか 〜国の内外の関連動向の押さえどころと私たちに問われること〜
(NPO)日本障害者協議会 代表
藤井克徳氏
東日本大震災で、障がい者の死亡率が全住民の死亡率の約2倍であることがわかりました。その原因として見えてきたのは、災害対策だけでなく、障がいのある方たちへの「日常の人的、物的な支援策と関係が深い」ということ。その隙間を埋めるため、私たちはヤマト福祉財団の支援も受けながら今回発生した能登半島地震の現地に支援センターを設け支援を進めています。
こうした問題に取り組むためにも、福祉に携わる私たちは「日本の障がい者政策史」を理解しておく必要があります。その一つが、約48年も続いた旧優生保護法問題です。先日の最高裁の判決で「立法時から憲法違反だった。無条件で被害を回復しましょう」とはっきり明言されました。これを政府がどう受け止め、対応していくのかに注目したいと思います。
次に気になるのが、精神障がい分野の遅れです。NHKは「ルポ死亡退院」と銘打ち東京八王子市の滝山病院を取り上げました。その内容は「死亡が原因で退院する人が、治って退院する人よりも多い」という事実です。じつは40年前に宇都宮病院事件というものが起き「今後は、人権に立脚した精神医療に変えていく」と発表していました。しかし、未だ同じことを繰り返しているわけです。
2010年の障害者権利条約から「障がい者の暮らしぶりは変わってきた」と言われています。でもそれは、以前の日本に比べての話。障害者権利条約は、「よりまし論」ではなく「本来あるべきは!」の直球勝負です。国連は障害者権利条約を取り決めた際、こんなことも述べました。「障がい者を締め出す社会は弱くもろい」。「障がい者は特別な人間ではない。障がい者は特別なニーズを持つ、普通の市民である」と。障害者権利条約は、日本の障がい者福祉の進むべき方向を指し示す北極星です。そこに向かって、迷わず進んでいきたいと思います。
小倉昌男賞 受賞者講演 越境する福祉
(社福)福祉楽団 理事長
飯田大輔氏
(社福)福祉楽団は、千葉県と埼玉県で高齢者から障がいのある方、子どもたちまでの横断的な支援を行っています。延べ利用者数は、2023年度で約18万人。そのなかの一つ「恋する豚研究所」は、最初から儲ける仕組みを作り、そこに障がい者雇用を組み込む形でスタートした事業所です。
叔父の養豚場では、脂質やタンパク質などを計算した飼料で豚を育てています。私はアミノ酸の配合、不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の割合などを調べ、美味しさの秘密を数値化し、大手百貨店などの信頼を獲得してきました。この豚肉を「恋する豚研究所」1階の工場で商品化。約30名の利用者さんがハムやハンバーグ、しゃぶしゃぶ肉などの加工からパッキング、シール貼りまでいろいろな仕事を担当しています。それを2階のレストランで、年間約15万人のお客様に提供しているのです。他にも地域と連携し、農業や森の伐採作業などを行う事業所も開設。ここで栽培するサツマイモをヤマト福祉財団に助成いただいたトラクターで収穫してスイートポテトも製造し、年間約3,000万円を売り上げています。
近年、障がいのある若い人が犯罪に巻き込まれるケースが増え、うちにもオレオレ詐欺の受け子や窃盗で服役した人なども働いています。彼らを「個性」などという安易な言葉でまとめず、人として一人ひとりと向き合うことが大切です。たとえば、朝きちんと起きて日の光を浴び、ご飯を食べ、働いて、お風呂に入って寝る、そんな生活サイクルから教え、そのための環境を整えていく。その上で、だれもが仕事に就けるように、各商品を作る作業をいくつにも分解し、説明マニュアルも細かく作成します。また、少年院で学んだ木工技術を活かせるように新たにベンチやスツールの製作も始めました。
障がいのある子どもたちのなかには、親の虐待に遭い、学校に通うことも食事もきちんと食べさせてもらえない子がいます。そんな環境だと、つい自殺を考えたり、犯罪にも巻き込まれやすくなっていく。これをなんとかしたいと、いま地域の方と協力し里親へのケアも含めた新たなサービスを構築しているところです。すでにそんな取り組みを行われているみなさんは、ぜひそのモデルケースを全国へ発信してください。より多くの人が自分たちの地域をどう作っていくかをともに考え、取り組んでいく、そんな輪を広げていきましょう。
実践報告1 東京都認証ソーシャルファーム3年間の取り組み
(有)まるみ 取締役社長
三鴨岐子氏
当社は、東京都認証ソーシャルファーム制度の第一号として2021年に認証されました。仕事は、パソコンを使った名刺、封筒、チラシ、会社案内、リーフレット、ポスター、ホームページなどの制作です。現在、鬱病や発達障がい、統合失調症などのある方10名が働いていますが、パソコンに向かい自分の仕事に集中するスタイルは、精神などに障がいのある方に適していると思います。
障がいのある方が活躍する上で必要なのは「ちょうどよい仕事、安心できる環境、自分を助ける力」の三つです。まず私が気をつけているのは「他人と同じでないことを責めないこと」。人より時間がかかったり、やり方が違っていても、それを理解することから始めます。たとえば、こんな例があります。優れたデザイン能力がありながら、極端に朝が弱く自分にフィットする職場が見つけられずに悩んでいる方がいました。十分な話し合いのもとで、その人独自の職務規程を作り、即戦力として迎え入れ、存分に力を発揮いただいています。また、デザインの素人で、最初はDM発送を担当していた方がいましたが、研究熱心な彼は、1年間でデザインの仕事をマスター。現在はうちの動画編集のエースです。
今後、ソーシャルファームを実践していく企業として、私たちになにが求められるのか。傷ついた経験のある人が、働くことで元気になるケースもありますが、そうはいかない病気もあるし、加齢もあります。お互いに負担がない、ナチュラルサポートが、いまの私の宿題です。そこで大切なのは「お互いが役に立っている」ことを確認し合うこと。本音を話せる仲間として「助けたり、助けられたり」していける組織こそが、ソーシャルファームなのではないかと、この3年間つくづく考えさせられています。
実践報告2 「この街でおもろいことしよ! ほんで繋がろう!」が好きな人
(NPO)縁活 常務理事
杉田健一氏
縁活の理念は「みんなで笑う、暮らす、働く」です。10年前、私はまずグループホームを作り、次に小さな5反の畑で農業を始めました。それが農園・おもやです。農業の素人の私たちは、作物を育てるイロハから販売方法まで、いろんなことを周りの方に教えていただきながら、少しずつ成長。いまでは、農地は約2ha、ビニールハウスは13棟、野菜や米、ぶどうなどを自然栽培でも生産しています。この作物を地域の方に振る舞うオモヤキッチンも立ち上げました。現在、利用者さんの人数は約34名、給料は4万7,000円です。
こうお話しするととんとん拍子で進んだように聞こえますが、じつは苦労と失敗の連続。農業を楽しむことと売上げを伸ばすこと、働くことと支援のバランス、飲食店の運営方法、自然栽培へのシフトなど、いろんなことで職員と意見が対立しました。そこで痛感したのはコミュニケーションの大切さです。以来、職員同士で密に意見を交わして改善を図り、任せられる事業は思い切って他の職員を信頼してバトンタッチしました。「利用者さんにもっと笑顔になってほしい」その想いは全職員が同じ。縁活は、みんなの愛でできているのですから。
現在私は、自然栽培パーティという農と福の繋がりを全国ネットで広げる団体の活動や、ナイスセンタープロジェクトという地域の方との繋がりを広げる新たな試みにも挑んでいます。障がいのある方、お年寄り、子ども、お父さん、お母さん、そして若者と、だれもが安心して楽しく暮らせる地域共生の街を、行政や住民、各種団体などいろんな人と作っていく。やっぱり私は「この街の人たちと繋がって面白いことをどんどんでやってく」それが大好きなんです。