2024年度 障がい者の働く場パワーアップフォーラム 大阪会場いま改めて「働く意味」を問う
2024年08月22日 (木)
マイドームおおさか

主催者あいさつ 多くの方と一緒に、障がいのある方の 「働く意味」を改めて考えましょう
(公財)ヤマト福祉財団 理事長
山内 雅喜
2024年度のパワーアップフォーラムは、東京・大阪の両会場を、多くの方に直接来場・参加いただくリアル会場開催として実現できました。この酷暑のなか、みなさんに会場まで足を運んでいただけるのか不安でしたが、会場の奥まで参加者で一杯になっている様子を見て安心すると同時に、みなさんの熱意に心が震えています。
先日、最高裁で旧優生保護法に関する大きな判断が示されました。また、差別解消法における合理的配慮が義務化されたことも、みなさんはご存じでしょう。障がいのある方と福祉関係者を取り巻く環境はどんどん変化し、それとともに多くの方が障がい者福祉に関心を持ち、現場に立つみなさんの対応もより注目されるようになっています。その視線の先に、しっかりとした考えのもと、障がいのある方々と真摯に向き合うみなさんの姿があれば、人々の信頼もより高まっていくはずです。
本日は、障がいのある方の「働く意味」を改めて問いながら、現在の環境下で、私たちが何を大切にし、行動していくべきなのかを一緒に学んでいきます。そしてこのフォーラムが、みなさま同士の繋がりを築く新たなきっかけに、明日を頑張る力の一助になってくれたら、と願っています。

基調講演 障害者支援と地域共生について
日本社会事業大学専門職大学院 客員教授
蒲原基道氏
一般就労でも福祉的就労でも、自分の考えを理解してもらい、地域に役立つ仕事をする。その上で「自立した日常生活、社会生活」を送れるようにしていくことが大切です。自立とは「他人のサポートを受けながら自分らしく生きる、働くこと」。ではどんなサポートが必要なのでしょうか。
私は厚生労働省に入り、障がい者の自立支援に長く携わりました。そこで「医療、住まい、地域づくりなどいろんなサポートの中で就労支援を行い、地域と共生していくこと」の大切さを知ったのです。たとえば、医療では「治すことも大事だけど当事者を支える」ための訪問診療や訪問看護の重要性が問われています。最近話題の医療的ケア児もそうですが、そこには地域医療と福祉サービスの連携が必須です。特別な配慮が必要な高齢者や障がいのある人が「自分らしく暮らしていく」ためには、NPOやボランティア、企業、元気なシニア世代などと連携した見守り機能も求められています。
現在、さまざまな形で障がいのある方たちが、暮らしていく上での合理的配慮がインフォーマルで進んでいます。たとえば、昔は噛む力の弱いお子さんをレストランに連れて行けませんでした。でもいまは、リクエストするとそんな料理を提供してくれる、地域に密着してそこに住むいろいろな人に寄り添うお店、企業がいくつも現れています。こうした暮らすための「地域づくり」と同時に、働く上での「地域包括ケア」も進めなければなりません。
大切なのは「日常だけではなく、社会生活もできること」。たとえば、ガン患者が治療をしながら働くことは常識になっています。ならば精神に障がいがある方が治療をしながら働くことも当然のはず。他にも、引きこもりや受刑者など、医療や福祉制度の枠から外れた人をサポートするため、農福連携をユニバーサル農園として多様な受け入れを目指す方たちがいます。これからは障がい者、高齢者などと分けるのではなく「横割り」的な視点が大切です。私はこれらを国や地方行政が後押しできる仕組みづくりこそ、早急に必要だと思っています。

時流講座 障がいのある人の今をどう読むか 〜国の内外の関連動向の押さえどころと私たちに問われること〜
(NPO)日本障害者協議会 代表
藤井克徳氏
東日本大震災で、障がい者の死亡率が全住民の死亡率の約2倍であることがわかりました。その原因として見えてきたのは、災害対策だけでなく、障がいのある方たちへの「日常の人的、物的な支援策と関係が深い」ということ。その隙間を埋めるため、私たちはヤマト福祉財団の支援も受けながら今回発生した能登半島地震の現地に支援センターを設け支援を進めています。
こうした問題に取り組むためにも、福祉に携わる私たちは「日本の障がい者政策史」を理解しておく必要があります。その一つが、約48年も続いた旧優生保護法問題です。先日の最高裁の判決で「立法時から憲法違反だった。無条件で被害を回復しましょう」とはっきり明言されました。これを政府がどう受け止め、対応していくのかに注目したいと思います。
次に気になるのが、精神障がい分野の遅れです。NHKは「ルポ死亡退院」と銘打ち東京八王子市の滝山病院を取り上げました。その内容は「死亡が原因で退院する人が、治って退院する人よりも多い」という事実です。じつは40年前に宇都宮病院事件というものが起き「今後は、人権に立脚した精神医療に変えていく」と発表していました。しかし、未だ同じことを繰り返しているわけです。
2010年の障害者権利条約から「障がい者の暮らしぶりは変わってきた」と言われています。でもそれは、以前の日本に比べての話。障害者権利条約は、「よりまし論」ではなく「本来あるべきは!」の直球勝負です。国連は障害者権利条約を取り決めた際、こんなことも述べました。「障がい者を締め出す社会は弱くもろい」。「障がい者は特別な人間ではない。障がい者は特別なニーズを持つ、普通の市民である」と。障害者権利条約は、日本の障がい者福祉の進むべき方向を指し示す北極星です。そこに向かって、迷わず進んでいきたいと思います。

小倉昌男賞 受賞者講演 働く中で喜びを 〜オリーブ40年の歩みから〜
(社福)オリーブの樹 理事長
加藤裕二氏
日本の障がい者就労「一般就労と福祉的就労」は、それぞれメリット・デメリットを抱え進んで来ました。本日は、その歴史を私の40年間の歩みとともに振り返ってみたいと思います。
高度経済成長期、人手不足の企業は、多くの障がい者を採用しました。しかし、生産性重視のため採用されたのは一部の人。大半は「授産施設」に居場所を求めます。授産施設とは、国が認可した社会福祉法人で補助金をもらえるですが、簡単には認可されず数はなかなか増えず、行く場所がない。そこで生まれたのが「無認可の共同作業所、福祉作業所」です。私も1984年に「オリーブハウス(現オリーブの樹)」を開所しました。さらに、1995年以降バブルがはじけると企業の経営は悪化し、人員削減で職場を追われた人たちは作業所へ詰めかけます。でも大半の作業所は、仕事が少なく給料も安い。私たちは「労働者性の尊重と、福祉的利用者としての対応のバランス」に頭を悩ませます。これは、いまも多くの施設が悩み続ける難問ですね。
そして2006年、障害者自立支援法が施行され、最賃を守る雇用型の就労継続支援A型事業所が誕生。私は「労基法の適用を受け、福祉施設で働く障がいのある方の労働者権利が守られる。バックアップする福祉的援助も併せて進めば、福祉と就労のいいところ取りになる」と歓迎しました。その後、非雇用型のB型事業所も生まれますが「より高い給料」を目指す点は、共通の課題です。
いまは給料向上のため、観光需要の促進、施設外就労、農福連携、みなし雇用などいろいろな選択がありますので、これを活用しない手はありません。私たちも千葉市から草刈りの仕事を請け負うことで、年間約1,500万円の売上を確保できています。じつは、私たちの事業の柱・クッキーの製造販売が、コロナ禍で危機的打撃を受けました。それでも若い職員たちのアイデアでオンラインショップや注文販売を展開。業態の転換を図り、売上を回復させています。企業に負けない高付加価値の商品やサービスをどうやって作り出していくか。私の40年間は、その試行錯誤の連続であり、その挑戦はいまも続いています。

実践報告1 東京都認証ソーシャルファーム3年間の取り組み
(有)まるみ 取締役社長
三鴨岐子氏
当社は、東京都認証ソーシャルファーム制度の第一号として2021年に認証されました。仕事は、パソコンを使った名刺、封筒、チラシ、会社案内、リーフレット、ポスター、ホームページなどの制作です。現在、鬱病や発達障がい、統合失調症などのある方10名が働いていますが、パソコンに向かい自分の仕事に集中するスタイルは、精神などに障がいのある方に適していると思います。
障がいのある方が活躍する上で必要なのは「ちょうどよい仕事、安心できる環境、自分を助ける力」の三つです。まず私が気をつけているのは「他人と同じでないことを責めないこと」。人より時間がかかったり、やり方が違っていても、それを理解することから始めます。たとえば、こんな例があります。優れたデザイン能力がありながら、極端に朝が弱く自分にフィットする職場が見つけられずに悩んでいる方がいました。十分な話し合いのもとで、その人独自の職務規程を作り、即戦力として迎え入れ、存分に力を発揮いただいています。また、デザインの素人で、最初はDM発送を担当していた方がいましたが、研究熱心な彼は、1年間でデザインの仕事をマスター。現在はうちの動画編集のエースです。
今後、ソーシャルファームを実践していく企業として、私たちになにが求められるのか。傷ついた経験のある人が、働くことで元気になるケースもありますが、そうはいかない病気もあるし、加齢もあります。お互いに負担がない、ナチュラルサポートが、いまの私の宿題です。そこで大切なのは「お互いが役に立っている」ことを確認し合うこと。本音を話せる仲間として「助けたり、助けられたり」していける組織こそが、ソーシャルファームなのではないかと、この3年間つくづく考えさせられています。

実践報告2 「この街でおもろいことしよ! ほんで繋がろう!」が好きな人
(NPO)縁活 常務理事
杉田健一氏
縁活の理念は「みんなで笑う、暮らす、働く」です。10年前、私はまずグループホームを作り、次に小さな5反の畑で農業を始めました。それが農園・おもやです。農業の素人の私たちは、作物を育てるイロハから販売方法まで、いろんなことを周りの方に教えていただきながら、少しずつ成長。いまでは、農地は約2ha、ビニールハウスは13棟、野菜や米、ぶどうなどを自然栽培でも生産しています。この作物を地域の方に振る舞うオモヤキッチンも立ち上げました。現在、利用者さんの人数は約34名、給料は4万7,000円です。
こうお話しするととんとん拍子で進んだように聞こえますが、じつは苦労と失敗の連続。農業を楽しむことと売上げを伸ばすこと、働くことと支援のバランス、飲食店の運営方法、自然栽培へのシフトなど、いろんなことで職員と意見が対立しました。そこで痛感したのはコミュニケーションの大切さです。以来、職員同士で密に意見を交わして改善を図り、任せられる事業は思い切って他の職員を信頼してバトンタッチしました。「利用者さんにもっと笑顔になってほしい」その想いは全職員が同じ。縁活は、みんなの愛でできているのですから。
現在私は、自然栽培パーティという農と福の繋がりを全国ネットで広げる団体の活動や、ナイスセンタープロジェクトという地域の方との繋がりを広げる新たな試みにも挑んでいます。障がいのある方、お年寄り、子ども、お父さん、お母さん、そして若者と、だれもが安心して楽しく暮らせる地域共生の街を、行政や住民、各種団体などいろんな人と作っていく。やっぱり私は「この街の人たちと繋がって面白いことをどんどんでやってく」それが大好きなんです。