2025年07月04日 (金)

灘尾ホール

主催者あいさつ 先駆者たちの言葉から 明日を頑張る元気を

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

本日は暑いなか、多くの方にご参加いただきありがとうございます。年2回、福祉関係に関わるみなさまにお集まりをいただき、さまざまな情報交換やディスカッションを行うこのパワーアップフォーラムも今年で29年目を迎え、2025年度は、東京会場と名古屋会場での開催となりました。

 

昨年、最高裁で旧優生保護法が違憲だと判決が下され、障がい者に対する合理的配慮も義務化されました。昨今、障がいのある方を取り巻く環境は、着実に良くなりつつあります。ヤマト福祉財団としても、障がい者がより幸せに暮らせる社会づくりに少しでも貢献したいと、いろいろな取り組みを進めているところです。ただし、福祉施設・事業所を運営する者にとっては、あまり楽な状況とは言えません。業界全体が慢性的な人手不足に悩み、職員の待遇を改善したくても諸物価は上昇していくばかり。どうやったら障がいのある方の働き方や日常的な支援をより良くできるのか、多くの方が悩まれていると思います。

 

そのヒントとなる先進的な取り組みをされている方々に、本日は登壇いただきます。「あれならうちでもできるかもしれない。こういう考え方は良いかもしれない」そんな情報を一つでも持ち帰っていただき、事業所のみなさまと共有し、明日からの運営に生かしてください。そして、何か少しでも元気になる力をもらい、笑顔でこの会場を後にされることを願っています。

時流講座   障害のある人の今・働くことの意味を考える

(NPO)日本障害者協議会 代表

藤井 克徳氏

私たち障がい者福祉事業に携わる者が目指すのは、障がいのある方たちにより多くの働く場を、より良い質の仕事を提供する、そしてできるだけ高い賃金を支給することです。では、障がいのある方を取り巻く雇用状況はどうなっているのか。昨年、企業で働く障がいのある方の実人員は約677,461人、これは福祉的就労と合わせても障がいのある方全体の労働人口の約35%にしか過ぎません。2026年7月より法定雇用率は2.7%となりますが、どこまで徹底できるのかはまだ手探り状態です。

 

働きたい、幸せに暮らしたいと願う障がいのある方たちの期待に応えていく。この命題を実現するためにも、我々は障がいのある方を取り巻くさまざまな課題を改めて理解しておく必要があります。旧優先保護法問題、精神障がい者を取り巻く医療問題、能登半島地震でも明らかになった障がいのある方が被災する比率の高さなど、問題は山積みとなったままです。いずれにしても重要なのは、当事者の声にきちんと耳を傾けた上で改善を進めていくことにあります。

 

「私たち抜きに私たちのことを決めないで」障害者権利条約を取り決めた際に叫ばれたこの言葉は、働く場や仕事を提供する上でも大切にしなければならないテーマです。誰が主人公なのかを忘れることなく、どんなに忙しくても一人ひとりの声に耳を傾け、各人の能力を伸ばし、職業選択の幅を広げていく努力を続けていただきたいと願っています。

小倉昌男賞 受賞者講演  企業との共存から共生へ!~お互いがお互いを支え合う関係

(株)カムラック 代表取締役

賀村 研氏

カムラックの名は、私の名前が賀村ということと「ラッキーが来る」の二つの意味を込めました。私は、地元九州のアイドルグループやご当地ヒーローの後援会会長も兼務しています。なぜそんな活動をしているのか。それは障がいのある方がチャレンジする上でお世話になった多くの方に恩返しするため。そしてカムラックと一緒にもっと活動したいと思っていただきたいからです。

 

私は東京でソフトウェア開発の仕事をしていましたが、縁あって九州のIT会社に転職し、人材不足を補うプロジェクトに携わります。早速、定年退職された方や育児で家庭に入られた方、そして障がい者施設にお声がけしました。でも施設は障がいのある方がIT関連で働くことに及び腰です。だったら自ら会社を興して支援しようと決断。現在、利用者さんたちがA型、B型、移行支援事業所で協業いただくさまざまな企業の仕事をこなしながらIT技術と働くスキルを高め、その企業への就職も選択できる「段階的支援」を作り上げました。これが成立しているのは、あくまで企業が主であり、福祉は伴奏者として二人三脚で歩み続けているからです。

 

IT関連は、障がいのある方に仕事へのやりがい、高い給料、リモートワークといった働き方など、幅広い選択肢を生むことができる魅力ある事業です。私が講演依頼を受けたときには、段階的支援の仕組みづくりなどとともに「企業や地方のみなさまとの共生」も呼びかけています。互いに必要とし、必要とされる関係へ。それは人材や働く場の確保だけではありません。テレビのリモコンは、テレビの前まで歩くことが困難な方のために発明されたもの。障がいのある方と一緒に働くことで、企業は新たなイノベーションを生むチャンスも得るのです。そんなすべての方にラッキーが訪れる挑戦を、全国に広げていきましょう。

小倉昌男賞 受賞者講演  暮らしの幅を広げるチャレンジ

(社福)慶光会 理事長

柴田 智宏氏

私の原点は、約20年前に参加したパワーアップフォーラムの前身・パワーアップセミナーです。私は出来の悪い参加者で「できないことを環境や他人のせいにするな、目前の課題にとことん向き合え!」と毎回厳しく叱責されました。そこで私は手打ち冷凍うどんを開発し特許も取得。いろんなお店に販売して、月最高6,000円だった利用者さんの給料を、5年後には月7万円にしました。

 

その後、私は「事業所で10万円の給料をもらうより、9万円で良いから企業で働きたい」という利用者さんの声に衝撃を受けます。そして借金をして立ち上げたのがペットフードビジネスの会社・ドアーズです。まったく異分野の扉を開くことができたのは、人の出会いに恵まれたから。現在順調に仕事を増やし、年間売上10億円、周囲の福祉事業所に仕事を発注することもできています。

 

私はドアーズの他に、福祉施設の慶光会、障がい者のアスリート育成やスポーツ振興に携わるNPOと三つの代表を務めています。ドアーズが仕事を提供し、慶光会が生活を支援し、NPOが暮らしに彩りを増やしていく。これにより「障がいのある方の暮らしの幅を広げていく」ことを目指しています。大切なのは、利用者さんのことを人ごととはしない、自分のこととして真剣に向き合うこと。そして、このフォーラムに参加しただけで満足して帰らないこと。あなたが自ら変わっていくために、今日の出会いがあるのです。創る人になる、輝く人になる。福祉の世界がより良く変わっていくには、熱く夢を語り、皆を牽引する新しいリーダーが必要とされています。

実践報告   働く力を伸ばし、支える支援

(社福)武蔵野千川福祉会 チャレンジャー所長

佐藤 資子氏

今年で武蔵野千川福祉会は50周年を迎えます。まだ障がいのある方が地域で働く場、暮らす場がないような時代に立ち上げた法人です。私たちは、八つの事業所を運営していますが、利用者さんが行うのはDMの封入封かんという共通の仕事。異なるのは働くスタイルで、事業所ごとに機能分化を図り、利用者さんは働く力を伸ばし成長すると、その人に合う働き方ができる次の事業所へとステップアップします。最終段階の事業所では、他の利用者さんに自分の意見を伝え、他人の意見も聞いて必要な役割を皆で話し合い、協調して取り組んでいく。そんな一般企業に就労もできる人間性・態度を身につけていきます。

 

さらに私たちが大切にしているのは、生涯にわたって成長し、活躍の幅を広げる力を養うこと。これを「生涯発達支援・地域生活支援」と呼び、具体的には「学ぶ・楽しむ」「くらす」「はたらく」「かかわる」の四つの領域でサポートします。ただひたすら仕事をするだけではなく、学ぶ時間を設け、その人なりの働き、暮らす楽しみを見つける。いろいろな人・社会とかかわり、人生をより豊かにしていく。そんな支援を目指しています。

 

この四つの領域は、人が歳を重ね、成長していく段階で比重は変化していきます。各人のライフステージに合わせた最適な支援を行うには、職員自身もつねに学び続けなければなりません。利用者さんとの丁寧な関係づくり、事業所内での集団形成、利用者さんが自分の力を発揮できる役割分担、そしてさまざまな活動や新たな仕事にチャレンジできるように一人ひとりの力を伸ばし、豊かな暮らしを実現できる支援。これらを実現できるように、私たちも利用者さんと一緒に日々成長し続けています。

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