2025年度 障がい者の働く場パワーアップフォーラム 名古屋会場障がいのある人が自立するために働く場に求めていること
2025年09月12日 (金)
デザインホール

主催者あいさつ 先駆者たちの言葉から 明日を頑張る元気を
(公財)ヤマト福祉財団 理事長
山内 雅喜
本日は暑いなか、多くの方にご参加いただきありがとうございます。年2回、福祉関係に関わる皆様にお集まりをいただき、さまざまな情報交換やディスカッションを行うこのパワーアップフォーラムも今年で29年目を迎え、2025年度は、東京会場と名古屋会場での開催となりました。
昨年、最高裁で旧優生保護法が違憲だと判決が下され、障がい者に対する合理的配慮も義務化されました。昨今、障がいのある方を取り巻く環境は、着実に良くなりつつあります。ヤマト福祉財団としても、障がい者がより幸せに暮らせる社会づくりに少しでも貢献したいと、いろいろな取り組みを進めているところです。ただし、福祉施設・事業所を運営する者にとっては、あまり楽な状況とは言えません。業界全体が慢性的な人手不足に悩み、職員の待遇を改善したくても諸物価は上昇していくばかり。どうやったら障がいのある方の働き方や日常的な支援をより良くできるのか、多くの方が悩まれていると思います。
そのヒントなる先進的な取り組みをされている方々に、本日は登壇いただきます。「あれならうちでもできるかもしれない。こういう考え方は良いかもしれない」そんな情報を一つでも持ち帰っていただき、事業所のみなさまと共有し、明日からの運営に生かしてください。そして、何か少しでも元気になる力をもらい、笑顔でこの会場を後にされることを願っています。

時流講座 障害のある人の今・働くことの意味を考える
(NPO)日本障害者協議会 代表
藤井 克徳氏
私たち障がい者福祉事業に携わる者が目指すのは、障がいのある方たちにより多くの働く場を、より良い質の仕事を提供する、そしてできるだけ高い賃金を支給することです。では、障がいのある方を取り巻く雇用状況はどうなっているのか。昨年、企業で働く障がいのある方の実人員は約67万7,461人、これは福祉的就労と合わせても障がいのある方全体の労働人口の約35%にしか過ぎません。2026年7月より法定雇用率は2.7%となりますが、どこまで徹底できるのかはまだ手探り状態です。
働きたい、幸せに暮らしたいと願う障がいのある方たちの期待に応えていく。この命題を実現するためにも、我々は障がいのある方を取り巻くさまざまな課題を改めて理解しておく必要があります。旧優先保護法問題、精神障がい者を取り巻く医療問題、能登半島地震でも明らかになった障がいのある方が被災する比率の高さなど、問題は山積みとなったままです。いずれにしても重要なのは、当事者の声にきちんと耳を傾けた上で改善を進めていくことにあります。
「私たち抜きに私たちのことを決めないで」障害者権利条約を取り決めた際に叫ばれたこの言葉は、働く場や仕事を提供する上でも大切にしなければならないテーマです。誰が主人公なのかを忘れることなく、どんなに忙しくても一人ひとりの声に耳を傾け、各人の能力を伸ばし、職業選択の幅を広げていく努力を続けていただきたいと願っています。

小倉昌男賞 受賞者講演 利用者さんが主人公~福祉は人なり
(社福)いなりやま福祉会 常務理事
酒井 勇幸氏
いまから60年前、私はいなりやま福祉会のリハビリ担当として働き始めます。自身に視力障がいがある私は、当事者と支援する者、両方の気持ちを理解でき、特に子供たちの支援に力を入れていきました。すると多くの親御さんが「卒業後、障がいのある子は企業で働けず、自宅に籠ることになるのでは」と不安をこぼすようになります。そんな親御さんや仲間と力を合わせ、昭和55年、卒業後の子供たちの居場所、働く場として無認可の共同作業所を開所しました。
当時の我々を取り巻く環境は厳しく、最初は資源回収や家族が栽培した野菜の販売から始めました。それでも職員は根気よく地域を回り、輸出用タイプライターのスイッチと洗濯バサミの組み立て仕事を取ってきます。「一般企業の仕事ができる!」と意気込む利用者さんの姿は、もっとやりがいのある仕事をと我々に火をつけてくれました。平成15年に社会福祉法人として認可され体制を強化。二つのB型事業所で、千曲染からウエスやお菓子の箱作り、野菜や果物の栽培なども始めます。また、こうした仕事に就けない利用者さん、高年齢化した利用者さんも生き生きと過ごせるように、創作活動、生活介護、共同生活援助などを行う事業所も開設。現在、事業所は七つに増えています。
利用者さんが地域社会で自立していくには、少しでも高い給料が必要です。そこで考案した冷凍焼き芋は、千曲市のふるさと納税返礼品に採用されました。他にもヤマト福祉財団さんの助成で購入したフードプリンターで千曲市の名物・いな福のさくさくせんべいにイラストを入れた世界に一つだけの商品を製造。助成では車も購入し、紙資源回収は千曲市の約13%に増え、平均月額給料は3万5,000円になりました。現在、その上の5万円を目指す三つ目のB型事業所を来春開所しようと準備もしています。私たちの舞台の主人公は利用者さんです。働きたい、友だちがほしい、社会参加したい、そんな声に応えるため「福祉は人なり、地域とともに」を合い言葉に、まだまだ挑戦し続けます。

小倉昌男賞 受賞者講演 刑事から福祉へ~30年追い求めた真の共生社会とは
(NPO)ENDEAVOR EVOLUTION 理事長
松浦 一樹氏
私は少年課の刑事だったころ「問題を起こし少年院に送られた子供たちを地域社会は受け入れることができるのか、私にもなにかできないのか」という想いをずっと抱いていました。そんな私が「夢で飯が食えるか」と上司に言われながらも刑事を辞めて福祉の世界に飛び込んだきっかけは、施設で生き生きと楽しそうに仕事をする利用者さんたちの姿を見たこと。「自分の求める共生社会を実現する方法はこれだ!」と気づいたのです。
平成19年の自立支援法施行と同時にNPO法人のA型事業所を立ち上げると、いろんな障がいと経歴を持つ方、また引きこもりになっている方などが集まって来ます。そんな彼らと過ごすうち、仕事ができても生活面が上手くできない方が多いとわかり、私が住むマンションに別の部屋を借りてシェアホームという形で共同生活を始めました。一緒に定時に起きて仕事に行き、帰ってきたら食事を摂る。そんなきちんとした生活を私の家族と一緒に行っているのですが、いまでは部屋数も増えて大家族になっています(笑)
仕事は、契約した企業で働く施設外就労です。障がいのある方と職員がチームになって働きながら仕事のスキルと社会人マナーなどを身につけ、認められればその企業と雇用契約を結ぶ。もしも自分に合わなければここに戻ってくればいい、そんな就労ステップアップの仕組みを作りました。現在は五つの企業で施設外就労を展開し、ここ10年は離職率も0%になっています。私たちの事業の目的は、仕事を通して生き甲斐を見いだし、ここで頑張りたい、成長したいと思ってもらえるように支援すること。それには地域社会や仲間と生活していく上でのルールも教えなければなりませんし、彼らが悪い道に引きずり込まれないように守ることも必要です。いろんな苦労はありますが、一緒に仕事をして汗を流し、美味しいご飯を食べる、笑って泣いて一緒に課題を乗り越える、それがこの仕事の一番のやりがいだと思っています。目の前に困っている人、私たちを必要としている人がいる限り、これからも頑張り続けます。

実践報告 支援の充実と、効率化を求めて
ゆたか福祉会 リサイクルみなみ作業所 副所長
稲垣 伸治氏
以前は、高工賃を実現するためさまざまな下請け仕事を請け負っていました。でも成果は上がりません。そこで私は15年前、ヤマト福祉財団が主催する「働く力革新塾(新堂塾)」に入塾。高工賃を支払うノウハウ、わかりやすい環境作りなどを学びました。私はいままでのやり方を反省し、多種多様な下請け仕事をDMの封入封かん作業一つに絞り込み、効率的な働く環境と支援方法の改善に専念。平均給料1万5,000円から6万円にまで向上することができました。
私は5年前、DM事業を行うワークセンターフレンズ星崎から、ペットボトルや紙パックの資源化する仕事同法人内のリサイクルみなみ作業所に異動したのですが、その深刻な状況に驚きました。
とにかく入荷量が非常に多く1日平均約10トンのペットボトルを当日で処理しなければなりません。機械も使うのですが操作できる利用者さんは一部の人だけ。その育成とともに、ペットボトルの分別方法が変わったため、その指導も必要です。これらをクリアしなければ品質が落ち、業務委託の取り消しになる恐れも…。しかし職員は、フォークリフトや大型機械の操作・メンテナンスまで行うため、利用者さんの育成にまではなかなか手が回りません。でも新しい職員は簡単に集まりません。私はこれら難題を、新堂塾で学んだ「働く力をつける」で解決しようと奮闘しています。
まずは限られた人員で仕事をこなすため、作業の無駄を徹底的に排除。次に利用者さんへの教え方を、場当たり的ではなく系統的に指導する「システマティック・インストラクション」という一般企業で行われる手法に変え、わかりやすい分別習得プログラムも用意しました。さらに個別支援計画と工賃評価表を連動。工賃評価と現場の実践を結びつけることで支援効率を高める工夫も行っています。大事なのは、どんなに忙しくても職員は手を出さないこと。利用者さん主体で作業を進めることで「ここは私の職場、自分の力を評価され給料が上がっていく」と実感してもらいたいのです。そうすれば、利用者さんのモチベーションは高まりもっと成長していけると、私は信じています。
