ヤマト福祉財団 小倉昌男賞

楠元 洋子さん

楠元 洋子さん

  • 社会福祉法人キャンバスの会 理事長

【略歴】

宮崎県都城市生まれ
結婚を機に大阪府豊中市で27年間暮らす
その間、重度身体障害児であった娘の養育のため紙おむつの共同購入や食品販売などを通じて重度身体障害者施設の設立資金作りを手掛ける
平成13年8月 義母の介護のため宮崎県都城市に娘と戻る
    11月 保護者会を結成し、紙おむつの委託給付事業をボランティアで開始。利益を施設に寄付
平成16年5月 NPO法人キャンバスの会 設立
    8月 学童保育・居宅介護・レスパイトサービス「くれよんはうす」開設
平成17年4月 身体障がい者デイサービス「ぱすてるはうす」開設
    9月 「くれよんくらぶ」開設
   10月 障がい者雇用の店「紙おむつ専門店キャンバス」開店
平成18年2月 知的障がい者デイサービス「ぱれっとはうす」開所
    4月 小規模作業所「あとりえ」(同10月 就労移行支援事業所)開所
   11月 障がい者と高齢者雇用の店「ふれあい野菜市」開店
平成19年3月 共同生活事業所「姫城ホーム」開設
    4月 社会福祉法人キャンバスの会 設立
同 就労継続支援A・B型事業所「給食センターキャンバス」開設
    9月 就労継続支援A型事業所「CBSリネンサービス」開設
平成21年4月 「みやこのじょう就業・生活支援センター」開設
   11月 共同生活事業所「久保原西ホーム」開設
   12月 就労継続支援A・B型「CBSリネンサービス都北事業所」開設
平成22年3月 共同生活事業所「久保原東ホーム」開設
    5月  相談支援事業所・居宅介護支援事業所「キャンバス」開設
   10月 共同生活事業所「久保原南ホーム」開設
平成23年8月 短期入所事業所「さくら」開設
   10月 地域活動支援センターII型「なみき」開設
   12月 就労継続支援A型・B型事業所「お弁当のまるよし」開設
平成24年3月 共同生活事業所「広原ホーム」開設
    11月 株式会社「丸佳」食品加工場 開設

【推薦者】 岩下 博子さん
(社会福祉法人清樹会 ブライトハウス住吉 管理者)

【推薦理由】
 私の尊敬する友人でよき「ライバル」でもある楠元洋子さんは、1948年宮崎県都城市に出生。都城市は宮崎県の南西端に位置する市で人口は約17万人弱、薩摩藩の領地であったためその文化の影響を強く受けている都市です。ご実家は伝統ある「お米屋さん」を営まれており、真正直なお商売の在り方をご両親は示しておられたと伺っています。アイデアマンでありながら時代の流れの中で、実現できなかったお父様の様子を見たり聞いたりして、自分は実行する役割を果たしたいと心に留めておられた様です。学生時代の楠元さんはスポーツ万能で様々な競技で勝利をおさめる都度、個人の力ではない、チームワークの力でなしえたものとチームワークの大切さを痛いほど感じてこられたそうです。これらの体験を重ねて楠元さんには経営者としての素地がしっかりと整っていったと考えられます。
 26歳の時、ご結婚、二番目のお子様が重度の障害を持たれた方で、この方と運命の出会いともいうべき対面により楠元さんの人生は福祉活動の実践家として展開していきます。
 活動の始まりはそのお子様が19歳になられたときに、「障害があっても働けるような所を作りたい」「私たち保護者も安心できる施設がほしい」との素朴な願いを持って試行錯誤している時、共同作業所の方から「人、建物、資金を用意しなさい」とアドバイスを受け、紙おむつの販売に取り組み、資金作りをして小規模作業所を設立されました。専業主婦から企業を目指すことは多くの困難が生じるものと思いますが、楠元さんはまず「人」を訪ねその方から又次の人へとネットワークを拡大する中、女性らしい細やかな配慮で信頼関係を築き、その絆を強くしています。
 都城市へ戻られてから、ご主人のお母様や障害のあるお子様のお世話に追われながらNPO法人を設立。紙オムツの配達販売から学童保育、居宅介護事業、障害者デイサービス、ショートステイ事業など次々と短期間で事業展開を実現しました。とどまることのない活動は障害のある方を取り巻く現実に怒り、この世界を変えたいという強い意志によるものと想像します。楠元さんは「何のために」そして「誰のために」私たちは生きているの?という問い直しをいつもしておられます。原点に戻りつつ決してあきらめないその持続する実践は多くの人々に喜び、勇気を与え続けています。
 楠元さんは事業を起こすとき、いつもお身体の不自由なお子様の生きる姿からヒントを得てそれを様々なサービスに組み立てられておられます。平成19年に社会福祉法人キャンバスの会設立と同じく開設した給食センターのお弁当は、超スピードで売上数を更新し、今年4月から2店舗目を開設されました。現在、1,300個にも及ぶお弁当の配達販売をしておられます。お子様との生活から学ばれた楠元さんらしい細やかな配慮がお弁当の隅から隅まで感じられ、結果として大ヒットしているのだと確信します。商品作りには頑とした理念を持ち、職員さんと共に熱心に「売れる商品」を作ることに徹しておられます。商品開発の能力も優れた方ですが、セールスが大好きという天性の力を発揮して企業との関わりを深めています。その努力の甲斐あって、地元や遠く県外の多くの企業の力強い支援を勝ち取り、その結果事業がスピーディに拡大して、法人全体でA型事業所で働く方:76名、B型:56名の方々が喜々としてお仕事に励んでおられることに敬服致します。楠元さんは就労支援のみならず、「暮らす」ことにもしっかりハード領域、ソフト領域両面の体制を整え、ニーズに応じた事業を数々開設しておられます。現在、次々と新しい企画が進行中で障害のある方の喜びがさらに向上していくものと考えます。自らの実践課題をしっかりと持ち、全職員一体となってやさしい街づくりを持続してゆかれる楠元洋子さんを小倉昌男賞の候補として心より推薦いたします。

ヤマト福祉財団 小倉昌男賞

堀込 真理子さん

堀込 真理子さん

  • 社会福祉法人東京コロニー IT事業本部
  • トーコロ情報処理センター 職能開発室 所長

【略歴】

広島県生まれ
早稲田大学第一文学部 美術史学卒業
パソコンメーカーに入社し、販売店教育やユーザーサポートに携わる。その中で、エンドユーザーと中間ディーラーのための教育方法を学ぶ。その後転職した外資系ソフトメーカーで、障害をもつ方々の多くのパソコン利用の現状を知り、職域の方向を転換。
1995年 日本社会事業大学研究科にて社会福祉士取得
1995年 社会福祉法人東京コロニー 情報処理センターにて重度身体障害者のIT教育と在宅就労支援に携わる
1996年 在宅就労として法人で初の雇用実現:株式会社ロジクール様
1997年 沖電気工業株式会社 社会貢献推進室様への求職者紹介を通じて本格的な在宅雇用支援の開始
1999年 蓄積したノウハウを元に在宅雇用を中心とした職業紹介開始
  同年 在宅雇用障がい者累計20名超
2000年 請負型の在宅就労支援業務開始
2001年 IT講座 受講修了者累計50名超 在宅雇用障がい者累計33名
2004年 東京都障害者ITサポートセンター(現:IT地域支援センター)受託運営開始
2005年 在宅雇用 勤続10年2名輩出
2012年 IT講座受講修了者94名 在宅雇用47名 通勤就労11名
    (IT受講修了者以外の在宅雇用23名 通勤就労2名)
     平均月収14万9千円
     勤続10年以上22名 その他に業務請負・起業者23名
     脊椎損傷・脳性まひ・筋ジストロフィ、その他難病など重度身体障害者を中心に就労支援をおこない現在に至る

【推薦者】 松井 亮輔さん
(法政大学 名誉教授)

【推薦理由】
 堀込真理子氏は、1995年に社会福祉法人東京コロニーに入所以来、一貫して在宅の重度身体障害者に対して就労の道を開く活動をして来ました。インターネットもほとんど普及していない時代から外出が困難な重い障害のある方にとってパソコンが必ず自立の手段となるという確信のもと、国家試験の情報処理技術者試験の取得をめざしたIT教育を障害者の自宅に出向き実施し、IT技術者を育ててきました。
 個人的なつてを頼りに仕事の開拓をはじめ、そのうちの一人が企業担当者に高い評価を得たことから、在宅勤務という形での雇用に結び付けることに成功。その経験をもとに、在宅に特化した職業紹介を行えないかと考え、1999年に有料職業紹介事業者としての認可を取得し、全国に先駆けて重度障害者を主な対象とした職業紹介事業を開始するに至りました。
 以降、通勤が困難で働くことが無理と考えられた重度の頸椎損傷、筋ジストロフィー、脳性まひなどの方々に対して、企業で社員として働く道を拓き現在までに60名以上が就職を果たしたこと、しかも、就職後の定着率も非常に高く、すでに10年以上勤続している人が20名以上となっていることは、きわめて大きな実績と評価できます。また、就職した後でも、仕事の進め方や上司とのコミュニケーションの取り方などテレワーク特有の悩みについて親身になって相談に乗り、時には企業担当者との間に入ったりしながら問題を解決するというきめ細かな取り組みにより、多くの障害者を経済的自立へと結びつけました。
 在宅雇用の求人はハローワークで探しても数件あるかどうかというのが現状であり、求人を待っていては成就しません。各人に合う仕事や適切な職場環境を考えて企業に提案し、仕事を創出してもらうというきわめて前向きな取り組みこそが、堀込氏の成功の秘訣といえます。
 これらの就職を果たした方々は、すべて最低賃金以上の安定した収入を得られるようになり、生活の質が向上しただけでなく、社会に貢献できる喜びを味わい、人生を大きく変えました。
 また、療護施設に入所している方や入退院を繰り返す方など、雇用されるのに必要な労働時間数を満たせない方のため、2000年に雇用ではない働き方を希望する障害者によるSOHOチーム「es-team」を立ち上げ、営業担当者や、仕事の割り振りや検品を担当するコーディネータを配置し、収入を得られるようにしました。
 2004年からは、東京都障害者IT地域支援センターの責任者ともなり、瞼などわずかに動かせる部分を使ってパソコンを操作する方法や、失語症などのためにコミュニケーションが難しい方の意思伝達の方法を考えるなど、様々な障害者の社会参加の実現に向けて献身的な活動を行っています。
 こうした活動の成果は全国にも波及し、2006年には、それまで雇用中心だった障害者雇用促進法に初めて「雇用されない働き方」を支援する記述が入りました。これは、自宅等で就業する障害者に仕事を発注すると、発注元企業に特例調整金等が支給されるものです。また、2012年には就労継続支援事業所が在宅においても通所と同様に利用できることになりました。
 このように堀込氏は、障害者が働くことを通して社会参加できる機会の拡大に積極的に進め、多くの障害のある方に自立の道を開いて働く喜びをもたらしてきたことにより小倉昌男賞にふさわしいと考えて推薦する次第です。