第21回 ヤマト福祉財団 小倉昌男賞

奥西利江さん

奥西利江さん

  • 社会福祉法人維雅幸育会 統括管理者
  • ふっくりあモォンマール 管理者

【略歴】

1962年 三重県名張市生まれ

1985年 佛教大学社会学部社会福祉学科卒業、障害児入所施設に保育士として勤務

1988 小規模作業所「上野ひまわり共同作業所」開設(所長)、地域の反対運動により4度の移転を繰り返す

1994年 「社会福祉法人維雅幸育会」創設(設立代表者)、施設設置不同意の訴訟を経験する

1995年 知的障害者通所授産施設「上野ひまわり作業所」開設(施設長)

1997年 分場「びいはいぶ」開設(施設長)・地元の工場にて施設外授産活動を開始

2003年 ひまわりデイセンター「ふっくりあ」開設(授産施設・デイサービス・日中一時支援・グループホーム・ショートステイ・ヘルパーステーション・相談事業等の複合施設)(施設長)

2004年 伊賀市指定管理にて国の重要文化財「俳聖殿」の管理を開始

2006年 障害者自立支援法施行により新事業に順次移行

    株式会社ミルボン・ロート製薬株式会社にて施設外就労活動を開始

2009年 就労継続支援AB型事業「ふっくりあモォンマール」開設(管理者)

2012年 在宅就業支援団体登録(厚生労働大臣)

2013年 チョーヤ梅酒株式会社での施設外就労活動を開始

2016年 中外医薬生産株式会社での施設外就労活動を開始

   伊勢志摩サミットにてふっくりあモォンマールの「伊賀の飛猿」サブレが配偶者プログラムのお茶菓子に採用

2017年 天皇陛下より御下賜金拝受(びいはいぶの高工賃支給に対して) サラヤ株式会社での施設外就労活動を開始

2020年 施設外就労フォーラムを開催(日本財団助成事業)

現在、上野ひまわり作業所(就労B 2019年度月額平均工賃24,987)、びいはいぶ(就労 B 2019年度月額平均工賃53,821)、ふっくりあハウン(就労B 2019年度月額平均工賃23,656)、ふっくりあモォンマール(就労A 2019年度月額平均賃金90,850円 ・ 就労B 2019年度月額平均工賃37,147)の就労継続事業の他、就労移行・就労定着・グループホーム等15事業所を運営

【推薦者】 福壽 勇さん

社会福祉法人伊賀市社会福祉協議会 会長理事

推薦理由 

【はじめに】

1988年、上野市社協(現伊賀市社協)では、専門員が日々仕事を終えてから障がいのある人の家庭を訪問し、各種の福祉制度等に関する相談に応じていた。当初親の会は親の死後を考え、入所施設の建設を行政に要望していたが、その計画は遅々として進まなかった。まず自分たちで可能なところから始め、地域の人に障がいのある人についての理解と協力を求める意味からも、障がいのある人が“あたりまえに暮らせる街”にするために小規模作業所(以下、作業所)の必要性を訴え続けていた。その推進のために、「上野ひまわり共同作業所」に奥西利江さんを所長として迎えることができた。その後、奥西さんは、利用者の組織化と特別養護老人ホームでのボランティア活動、支援コンサートの企画、祭りなど地域行事の支援、運営費捻出のアルミ缶収集活動、作業内容の拡大など多彩な活動に精力的に取り組み、4回の転居の後、社会福祉法人化と共に事業を拡大していった。

作業所の開所以来多くの感動的な日の中で、忘れられない日がある。198887()、同年4月から貯めてきた工賃(800円)を支払う日がやってきた。参加したすべての親やボランティアの目には涙が浮かんでいた。ある人は「これで親に良い物を買ってやるんだ」。またある人は、「これまで勤めていた時には何十万円という給料をもらっていたが、今日のお金程大事なものはない。通帳を作ってためる。」と言った。障がいがあっても、その人が暮らしなれた地域で生活し、働き、つながり、楽しむ。その基礎を築き、可能性を広げ続けている姿は、まさに福祉に関係する者の理想とするところである。

【障がいのある人の働く・暮らすをトータルにサポートする維雅幸育会の活動】

社会福祉法人 維雅幸育会の設立経緯は、障害児入所施設で保育士をしていた奥西さんが、1988年、24歳の時に小規模作業所「上野ひまわり共同作業所」を開設したことに始まり、その後、4度の移転、財政難、施設設置の反対運動等数々の苦難、難題を、多くの人々の支えのもとに信念を貫き、地域からの総額9,900万円もの寄付金を財源として、1994年社会福祉法人を設立。翌年に知的障害者通所授産施設「上野ひまわり作業所」を開設した。開設から現在まで「障がいのある人の働く場は施設でなく、地域の工場・商店の中に求めていく」「施設はできるだけ少人数の小さな単位で、更に地域に点在させ、一人でも多くの地域の人たちとの接点をもって運営をしていく」という理念を掲げ、就労支援を中心とした日中活動に取り組まれている。現在、5事業所を約140人もの方が利用され、同時にグループホーム、日中一時支援、ショートステイやホームヘルプステーション等の地域生活支援事業にも取り組み、余暇支援や生活支援事業をも積極的に展開している。

【障がいのある人たちの多様な就労モデルとしての施設外就労活動】

作業所設立当時、障がいのある人の多くは働く場もなく、在宅で過ごされている人が街にはたくさん居た。時代と共に、伊賀市においては企業誘致を積極的に行われ、障がいのある人が就労できる場所(環境)が増え、そんな中、奥西さんは、「障がいのある人も、環境を整えれば働けるということを広く伝えたい」という目標をもち、積極的に施設外就労活動に取り組まれた。現在、業務用ヘアケア製品の国内トップメーカーの株式会社ミルボンをはじめ、ロート製薬株式会社・チョーヤ梅酒株式会社・中外医薬生産株式会社・サラヤ株式会社と名立たる大手5企業と連携されるまでになっている。

 そして、企業の生産ラインに入って働く障がいのある人が増え、その結果として、就労継続支援B型工賃は長年に渡り三重県内トップを維持すると共に、施設外就労先を中心とした一般就労への移行や定着実績も高く、更には、高齢者・生活困窮者等の中間就労の場ともなっている。また、この施設外就労活動のシステムは、三重県から高い評価を受け、2020年、「M..Eモデル(Mie Inclusive Employment Project)」として全国に推進していく方針が打ち出された。

【おわりに】

奥西さんは、現場第1主義を貫き、伊賀市において、障がいのある人が児童期から高齢期まで、生涯に渡って地域の中で働き・安心して暮らすことをトータルにサポートする活動に献身的に取り組んでこられた。 そして次なる目標として、一人ひとりの働く場や暮らしの場での「活躍」を応援する質の高い支援こそが、その人の幸せにつながるという信念のもと、既成概念に捉われず、障がいのある人たちが「主体的に自分の人生を生きるための学びの場」となる福祉サービス事業の計画をも進めている。奥西さんは、今後も、現状に満足することなく、障がいのある人、一人ひとりが活躍されることを信じ、法人の行動指針である「開拓者たれ」の精神を持ち、時代に合わせた障害福祉の新たな活動に日々積極的に取り組み続けられることを確信している。

以上のことから、奥西利江さんを第21回ヤマト福祉財団小倉昌男賞に推薦致します。

第21回 ヤマト福祉財団 小倉昌男賞

佐藤春光さん

佐藤春光さん

  • 社会福祉法人ホープ 常務理事 フロンティア 統括施設長

【略歴】

1951年 北海道壮瞥町生まれ

1976年 北海道教育大学社会科卒業 白老町立森野小学校赴任

1983年 壮瞥町立幡敬渓中学校赴任

1990年 白老町立白老中学校赴任

同年 白老町ことばの教室や情緒障害児学級設置実現を通し「白老町手をつなぐ育成会」を引継ぐ。

1997年 山田洋次監督の講演と「学校Ⅱ」上映を町内で実現

同年 「白老で息を潜めて暮らす障がい者をなくする」育成会運動を展開しはじめる。

同年 教職に就きつつ他の作業所の一角を借り、共同作業所フロンティア開設

1999年 「全ての子どもが歩いて通える学校へ」町内の全学校に特別支援学級設置の運動を始める。

2002年 社会福祉法人ホープ設立準備会立ち上げ

2004年 社会福祉法人ホープ設立

2005年 54歳で白老小学校を早期退職し、社会福祉法人ホープ常務理事に就任

2005年 通所授産施設フロンティア開設(知的20、精神4、身体1

2009年 グループホームほのぼの荘開設(定員7 のち 定員12

2011年 多機能型事業所フロンティア開設(B31名、生活介護9名)

2013年 工賃増を目指し、施設外就労開始。(株式会社ナチュラルサイエンス)

2014年 ホームそよ風開設(定員7

2015年 登別市に就労継続支援B型事業所開設(定員20名)

2016年 ホームあおぞら開設(定員8

2017年 ホームこもれび開設(定員8

2019年 施設外就労開始:㈱チャレンジ有機、町立売店、健康福祉センター売店「エスパス」

2019年 フロンティア出張所(レストランPoroni)開設

2019年 フロンティア登別 施設外就労事業(カレンデュラカフェ)開始

2019年 フロンティア登別施設外就労事業(イレンカ)開始

2020年 民族共生象徴空間(ウポポイ)に直営レストラン カフェリムセ開業

役職

一般社団法人 北海道手をつなぐ育成会     会長

北海道手をつなぐ育成会通所事業所連絡協議会 会長

全国手をつなぐ育成会連合会北海道ブロック ブロック長

公益財団法人北海道障がい者スポーツ協会 副会長

【推薦者】 戸田安彦さん

白老町長

推薦理由

(1)障がい者に適した仕事や、労働環境づくりを工夫するなど、つねに障がい者の立場を考えて雇用拡大に努力し、著しい実績をあげている。

2004年から社会福祉法人ホープの常務理事、2015年からフロンティア統括施設長として現在までグループホームを含む法人全体の事業所の人材の確保と処遇改善に取り組むとともに障がい者に適した仕事を検討し授産事業種目の拡大や運営を創意工夫し、障がい者の働く場の確保や工賃向上と良き労働環境づくりに努め迅速な取組をモットーに著しい実績をあげている。

最近では、20204月に開設するウポポイ(民族共生象徴空間)による国立アイヌ民族博物館の事業に伴い、障がい者の仕事として町行政や関係機関の協力の下に以前から実施してきたアイヌ文化に係る野草茶やアイヌ文様品の製作、アイヌ食文化に係るレストラン運営の拡大に力を注いでいる。現在の授産事業種目は次のとおりである。

菓子・パン、印刷、アイヌ文化に係る野草茶、入浴剤、アイヌ文様品の製作、アイヌ文化に係るカフェ・レストラン運営、卵販売、施設外就労(花卉栽培・除雪・清掃・施設管理・売店運営・養鶏)、業務委託(花びら取り、乾燥)

(2)障がい者を手助けしたり、励まして、障がい者が喜びをもって働き続けていくことを可能にしている

白老町手をつなぐ育成会が運営母体となり、「地域で息を潜めて暮らす障がい者を一人もなくす」を目的に1997年4月に他事業所の一角に共同作業所フ口ンティアを開設し、その後借家に移転するなど拡大をしてきた。2002年9月にボランティアからの脱却を考え法人設立準備会を開催し、社会福祉法人をめざし国の施設整備事業を受けて、2005年4月に通所授産施設フロンティアを開設した。共同作業所から始めて、現在は、多機能型(生活介護・B型)事業所1、B型事業所(登別市)1、グループホーム4住居と全定員数100名に届かんとしており、2021年度に登別市に生活介護事業所、その後共同生活援助事業所を開設する計画を推進している。

障害福祉サービス事業所の開設や社会福祉法人の設立運営に尽力してきており、所属法人及び事業所以外の事業所の運営にも貢献してきた。生活介護を必要とする障がい者を含め手助けし、障がい者が働き続けていくことを実績としている。一法人内の支援に止まらず北海道全域で活躍しており、きょうされん活動では元きょうされん理事として活躍し、現在まで職員を継続的に送り込み積極的に貢献している。育成会活動では小学校及び中学校教諭としてことばの教室等障害児教育に長年携わるとともに、手をつなぐ育成会の事務局長を務め、北海道手をつなぐ育成会副会長・北海道手をつなぐ育成会事業所連絡協議会会長を長年務め、現在は北海道育成会会長に就任し全国の北海道ブロック長として活躍している。

また、人間味豊かな性格から相談の入口段階で障害の種別や程度に関わりなく選別せずに、親身になって相談を受けており、その後のフォローについても粘り強く関わり多くの障がい者や生活困窮者に生きる希望や喜びへと繋げて来ている。

<3>業績

 新体系移行以前の平成22年度からの推移を見ると、平成30年度では利用者総数が就労継続支援事業では2.15倍、共同生活援助事業では4.09倍と大幅に伸びており、社会福祉法人ホープの理念や事業の質や努力が評価されているのがわかる。それに伴い支援を厚くするために支援員をその倍近く、またはそれ以上に増員し、工賃の向上と安心で安全な支援の対応に努力している。

 利用者工賃平均月額では14,742円から31,561円と倍以上の伸びを示しており、多様な業種や施設外就労などの協力先を用意し試行錯誤してきた結果が現れている。

また職員の処遇改善も様々な面で進めてきた。給与に関しては正規職員のみならずパート職員についても時給ベースを760円から870円に上げ、毎年20円の定昇を実施、最高時給1,050円になっている。

令和元年度に入ってからも発展的に変化しており、今後も継続することにより今まで蓄積してきた技術や応援者の協力が実っていくものと確信している。

以上、ヤマト福祉財団小倉昌男賞候補者として正しく相応しいことから推薦申し上げます。