2021年09月10日 (金)

2021年 大阪会場編 オンライン開催

ペットフードの協業でコロナ禍を越える

(社福)慶光会 理事長 (有)ドアーズ 代表取締役

柴田智宏氏

私は、ペットフードの製造・卸売を行う(有)ドアーズという会社を経営しています。鳥取県に製造工場を、岡山県と兵庫県に物流センターを設置。それぞれに障がいのある方、シングルマザー、定年退職した方などが、自分に適した仕事と働き方を選び、活躍できる職場になっています。

私もかつてはみなさんと同じ福祉施設の職員として、利用者さんの給料増額に懸命でした。そんなとき、パワーアップフォーラムに参加し「できない言い訳を見つけるのではなく、どうしたら目標を達成できるのかを考え、取り組むこと」そして「いつ、だれが、どういうことを行うかを明確にし、職員みんなで共有して取り組むこと」が大事だと学んだのです。この教えをもとに、製麺事業で月額平均給料5万円にすることに成功しました。しかし、ある利用者さんに「ここで10万円もらえるより、もっと安くてもいいから企業で働きたい」と告げられ、ショックを受けます。その言葉に「職場も仕事も選択できることが、利用者さんの本当の幸せにつながる」と気づき、起業の道を選びました。もちろん、起業後の道は平坦ではありませんでしたが、あきらめることなく挑戦し続けた結果、年商10億円を超えることができています。

企業は「消費者ニーズ」から商品・サービスの開発を考えますが、福祉施設は「利用者さんの事情」から事業計画を組み立てます。仕事への姿勢が異なる両者の道は平行線のままです。それを変えるためにも、私は福祉施設と「協業」をはじめました。「協業」は、相手に喜んでもらえるWin-Winの関係でなければ成り立ちません。それには互いの考え、意見、要望、そして事情を、腹を割って話し合い、プラスの提案をし合うことができる関係であること。そしてなにより一緒に仕事をして楽しくなる相手であることが大事だと思っています。

パワーアップフォーラムで出会った長野のある施設とは、地域特性を生かし、鹿肉を使ったペットフードの製造を協業しています。最初はうちにあった製造機械をレンタルし、使い方や生産方法などのノウハウを指導していました。それがいまでは自ら機械も保有し、ペットフードメーカーと直接取引できるようにもなっているのです。ドアーズの社名は「すべての人の可能性を開くためのドア」という想いを込めています。コロナ禍でも「利用者さんのために新たな未来を拓きたい」そんな方たちとぜひ協業したいですね。

高工賃を目指して--施設外就労M.I.Eモデル-- 〜障害のある人の多様な働き方とライフデザインを描く〜

(社福)維雅幸育会 統括管理者

奥西利江氏

1988年に三重県伊賀市で小規模作業所からスタートした私たちが、最初に出せた給料は800円でした。するとある利用者さんに「これではタバコかコーヒーのどちらかしか買えない。せめて毎日、両方を買える給料がほしい」と言われたのです。また別の方には「僕には一人暮らしをして結婚をする、そんな夢がある。その夢を応援してくれるのが奥西さんの仕事なんでしょう?」とも。

私たちは「一人ひとりが人生を楽しく生きるための支援者でありたい」と考えています。でもこのままではその責任を果たすことができません。伊賀市には工業団地があり、さまざまな有名企業が工場を展開しています。私たちは、各社を回り仕事を手伝わせていただけないかとお願いして回りました。そこで出会った方が、化粧品を製造する(株)ミルボンの取締役生産本部長(当時担当係長)の村田輝夫さんです。村田さんには、特例子会社にしていただけないかと、他の事例の見学に同行いただきました。しかし、そこで見たのは、障がい者に本業は無理だと雑用ばかりさせている現実でした。村田さんは「奥西さんはこれで良いの? うちのラインには、利用者さんにできる仕事がきっとある。一般社員と一緒に働きながら、最初は簡単なことからはじめて、段々といろんな仕事ができるように覚えていっては」と応援いただくことになったのです。

そこで5〜6人の利用者さんに一人の職員というユニットを組み、施設外就労を開始しました。最初は、失敗して泣いて帰ってくることもありましたが、厳しく温かく指導いただくことで、いろいろな仕事ができるようになり、いまでは5本以上のラインを、私たちに任せていただいています。日々の仕事ぶりを評価いただき、正社員にステップアップする者も出てきました。そんな姿を見た他の会社からも声をかけていただき、計5社で施設外就労を展開。現在、A型で13万円、B型でも多い方は10万円以上の給料を支給しています。

さらに、一般就労した方が定年後に施設に戻り、製菓・製パン事業などでゆったり仕事ができる、そんなライフデザインも描けるようにしています。こうした私たちの施設外就労のあり方を、障がいのある方が多様な働き方と生き方を選択できるインクルーシブな事例「M.I.Eモデル」として全国に発信。それに共感いただける全国の施設や企業とネットワークを作り、一人ではできないことも、みんなで力を合わせていろいろと実現していきたいと考えています。

実践報告 共通テーマ「高賃金を目指して」

報告者1 (NPO)バイタルフレンドマザーワート

理事長 横石 たまき氏

長崎県の佐世保市でB型を運営しています。2002年に無認可の作業所を開所して2年目、利用者さんのご家族にもらった小倉昌男さんの著書「福祉を変える経営〜障害者の月給1万円からの脱出」を読み、私の「高工賃」へのスイッチが入りました。パワーアップフォーラムに参加し、一人で銀座のスワンベーカリーへ見学にも行きました。そこで、障がいのある方が生き生きと働く姿を見て「いつか私もこんなパン屋さんを作ってみせる」と決意したのです。

早速、パンやお菓子教室に通い「作っては売る」の試行錯誤を重ねましたが、なかなか売上は伸びず、利用者さんの給料は7,000円から9,000円の間を行ったり来たり。そんなとき、夢へのかけ橋実践塾の存在を知り、武田塾に入塾しました。「目標は月給3万円。それには売上の30%を利益にし、人件費にあてなさい」と課題を投げかけられますが、これが難しくて。できの悪い塾生だったと思いますが、このとき学んだことが、いまも私の頑張る指針となっています。

その後、実力のあるパン職人を雇用。ヤマト福祉財団さんの助成金で機械を導入し生産量を大幅にアップしました。また、女性客をターゲットにしたお洒落な洋食レストランもオープン。入塾から8年もかかりましたが、昨年、利用者さんの平均月額給料は32,000円を超え、レストラン単独だと6万円以上を支払えるようになりました。しかし、このコロナ禍でレストランの売上は下降気味に。それでも弁当や料理のテイクアウト、出張調理など、時代に合わせたサービスを強化するとともに、デリバリチームも結成。また、地元企業に営業をかけ、施設外就労も行えるようにしました。今後も「あきらめない攻める姿勢」を貫き、利用者さんの生活の質を上げるための工賃アップを目指し続けます。

実践報告 共通テーマ「高賃金を目指して」

報告者2 (社福)有田つくし福祉会 早月農園

支援員 大辻 宰氏

「利用者さんが労働、生活を通して、一人ひとりの豊かな発達保障と社会的自立を支援できるように」と2001年に開所した(社福)有田つくし福祉会。2012年には、5反弱の借地からスタートし、早月農園を作りました。その後1.5町のみかん畑も借りることにしたのですが、農業の素人の我々では管理がうまく行えず、地元農家に「農業専門支援員」として協力してもらうことに。農地管理から細かな作業指示まで指導いただき、だんだんと職員も利用者さんも農業の技能が向上。さらに、育てやすく単価の高い作物に絞り込み生産することで売上も伸びていきました。

和歌山県有田郡はみかんの収穫日本一ですが、過疎化が進み不耕作農地が増えています。そこでさらに農地を借り入れ、みかん果樹園を広げました。また、プロの農家と同じ土俵で競えるように、ヤマトさんの助成を活用し、より安全・効率的に作業できるモノレールや果樹選定機も導入。私は、ヤマト福祉財団の夢へのかけ橋実践塾で農業と地域ネットワークについて学び、現在は農福連携実践塾で六次化も勉強中です。それを生かし、福祉施設としての特性を生かした方法も検討しました。農家には、みかんを袋詰めする人手がありませんが、私たちにはたくさんの利用者さんがいます。そこで「高い単価で多種類の袋詰め」を求める取引先を開拓。他にも規格外品のみかんをジャム、ジュースなどに加工した商品も開発し、売上を安定させています。

現在みかん畑は3.5ha、八朔50a、梅15a、山椒10a、野菜20a、ビニールハウス5aと農園と呼ぶにふさわしい規模に拡大。平均月額給料も当初の約16,000円からいまは3万円を突破しています。利用者さんもずいぶんとたくましく健康的に変わりました。以前は出所するだけで仕事に参加していなかった人も、いまは楽しそうに1日農作業に従事しています。「ここでずっと働かせてほしい」と話してくれたときは、本当にうれしかったですね。これからもこの土地にしっかりと根を下ろし、給料5万円の目標を達成したいと思います。

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