2021年11月01日 (月)

東京・大阪 各会場共通

主催者あいさつ

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

 今年のパワーアップフォーラムも、昨年に続きフルオンラインで開催します。講演者たちと直接意見を交わすことはできませんが、大阪や東京の会場まで足を運ばなくても、自分たちの職場でみんな一緒に参加できる、そんなメリットがあると思います。

 この夏、2020東京オリンピック・パラリンピックの放映を観た多くの方たちは、感動とともに、障がいのある方たちがより身近な存在として感じることができたのではないでしょうか。だれもが一緒に幸せになっていける、そんな社会により近づいていくために、このパワーアップフォーラムが少しでもお役に立つことができればと願っています。

講演 クロネコヤマトの満足創造経営

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

だれも経験したことのないコロナ禍という状況で、多くの福祉施設が「より良い支援とより高い給料をどうやって実現していくか」に頭を悩まされていることでしょう。今日はヤマトグループが100年の歴史の中で培ってきた企業経営などについてお話しますので、解決のヒントにしていただければと思います。

ヤマトグループは、1976年に宅急便事業を開始し、現在1日約500万個、1年で約20億個もの荷物を取り扱っています。これは1日約200km、毎日地球を50周もしている計算です。こうした面白い数字などで自分たちの商品や施設の特徴を、より印象に残る言葉で伝えることは商品を売る上での良い差別化になります。差別化を図るには「やっぱりヤマトじゃなければ」と思っていただける、より満足度の高いサービスを提供し続けなければなりません。そこで私たちが見つめ直したのは「お客様はだれなのか」ということです。以前は「荷物を出される方」を強く意識していましたが、あるときから「受け取る方」こそ真のお客様ではないかと視点を変えました。受け取る方がこぼすご不満やクレームは、新しいサービスを生み出す一番のヒントになります。それを全社員が共通の課題として受け止め、話し合い、解決していくことで新しいサービスを生み出しているのです。

このように、ヤマトグループでは「すべての基本はお客さま」という共通の価値観・目的を全社員が共有しています。これは組織を運営する上で最も大切なことです。さらに、全社員が会社の代表・顔だという意識を持ち、自分の役割をより明確にしています。一人ひとりが責任を持ち、日々の仕事に取り組むことで成果を上げ、やる気も高まっていく。この循環こそ、会社を成長させる鍵であり、それは福祉施設も同じだと思います。職員一人ひとりの役割を明確に指示し、同じ目的に進んでいけば、現場力は格段に高まっていくはずです。

みなさんは、コロナ禍でのさまざまな変化に戸惑っているかと思います。しかし、どんな状況でも「変わるべきもの、変わるべからざるもの」があるはずです。それを職員みんなで見極め、これからの施設、法人運営の舵取りを進めてください。人は自立して生活することで幸せを感じられます。障がいのある方が生き甲斐を持って働き、高い収入を得て幸せに暮らしていける。そんな社会をみなさんと一緒に実現していくことが、ヤマト福祉財団の願いです。

時流講座 障がいのある人をめぐる最新動向とディーセントワーク

(NPO)日本障害者協議会代表

藤井克徳氏

いまみなさんは、障がいのある方の就労に特化して取り組みをされていると思いますが、それ以外にもこれは知っておいてもらいたい、そんな障がい者を取り巻くさまざまな最新の動向をお伝えします。

現在、日本の人口の約15%、約9,643万人の方が障がいを抱えていると言われています。これは15年前の調査データの約1.5倍にもなる数値ですが、ここには弱視や難聴、発達障がいなどの「谷間の障がい」と呼ばれている方は含まれていません。こうした障がいのある方たちをさまざまな問題が取り巻いています。たとえば、東日本大震災で亡くなられた方の中で、障がいのある方の死亡率が障がいのない型に比べ、約2倍と高かったこと。5年前に起きたやまゆり園で露見したいまも根強く残る優生思想。また、優生保護法被害者の国家賠償などの訴訟問題など、解決できていない課題は山積みです。

こうした状況を少しでも打破すべく、20215月、障がいを理由とする差別解消の推進に関する法律の改正が行われました。しかし、たとえば通勤に関する支援など「だれもが対等に振る舞うための合理的配慮の徹底を国や行政だけでなく民間企業にも」というという点は、3年半先送りになりました。障がいとは、本人が持っているものではなく、社会が作り出しているものだという指摘があります。社会的なインフラや職場環境の改善は、当事者たちの声を置き去りにすることなく、一つひとつ解決していくことが肝要なのです

2021年、日本の民間企業法定雇用率は2.2%から2.3%に引き上げられましたが、ドイツ5%、フランス6%などと比べると未だに低い数値です。しかも法定雇用率を達成している企業は48.6%だけ。日本人の1564歳の生産年齢人口の約78%が就労できているのに対し、障がいのある方は一般雇用と福祉施設の雇用とを合わせても、約33%に過ぎません。働く喜びと労働に見合う賃金を得るディーセントワークは、だれにも当たり前に与えられるべき共通の権利です。それを障がいのある方が手にするためには、政策面、実践面の両面から改善していかなければなりません。きょうされんが調査した結果では、感染拡大前に比べ、約6割の作業所が経営的影響を受けていると語っています。これを乗り越えるためにも、今日、講演される方たちがどのような取り組み方で、高工賃、高付加価値を達成されているのかを、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

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