2021年10月01日 (金)

2021年 東京会場編 オンライン開催

農業を面白く・楽しく

(一社)農福連携 自然栽培パーティ全国協議会 理事長     (社福)無門福祉会 事務局長

磯部 竜太氏

1987年、愛知県豊田市に設立した無門福祉会は、2014年にわずか10m四方の小さな畑をもとに農業をはじめました。当初は、どの職員も農業の素人で、なにをどうやって栽培するのか、利用者さんにどんな仕事を任せて良いのか、採れた野菜の販売方法すらわかりません。近隣の農家さんとのおつきあいもうまくいかず、年間売上はたったの5万円にしかなりませんでした。

そんな私たちが変わったきっかけは、愛媛県で「自然栽培」を行う佐伯康人さんと出会ったこと。また同年に、ヤマト福祉財団さんの「水稲自然栽培チャレンジ」に参加し、トラクターなどの購入・レンタル費用も支援いただきながら、自然栽培に挑戦できたことでした。実践して驚いたのは「自然栽培はだれにでもできる」ということです。他の農法と違い「無農薬・無肥料・無除草剤」なので余計な手間もコストもかかりません。もちろん基本的な農作業は必要ですが、毎日手取り足取りで面倒を見なくても良い。自然栽培は作物が持つ自然本来の力を生かしているので、根も力強く張り、健康的。しかも採れた作物は他とは違う高付加価値で、予想以上に高く売ることができました。

もっと驚いたのは、利用者さんの変化です。下請け仕事ではいつも逃げ出そうとしていた方も、引きこもり気味で週1回しか通所していなかった方も、毎日笑顔で農作業するようになりました。そんな姿を見ていた近所の農家さんから「うちの農地も使ってほしい」と声がかかり、いまも私たちの田畑はどんどん広がっています。周りに必要とされる喜びは、利用者さんをより生き生きと変えました。職員もかつては「仕事はガマンしてやるもの、各人に合う作業を探すのも大変」と悩んでいたのに、いまは真逆です。農業には、畑仕事以外にも袋詰めや販売などの多様な作業がありますから、現在12名の利用者さんが自然や作物とふれあいながら、月額平均給料36,260円を手にしています。

そんな利用者さんたちを、私が理事長を務める(一社)農福連携 自然栽培パーティ全国協議会・通称自然栽培パーティでは、「農福師」と呼んでいます。「障害のある方の手で、全国の休耕地を田畑に戻し、地域を、ニッポンを元気にしていく」。そんな目標を抱いてわずか五つの施設ではじめた自然栽培パーティも、現在は福祉施設や農家を含め全国で約100に拡大しています。私たちが体験した奇跡と感動を、もっと多くの施設と共有していきたいですね。

農福連携という高付加価値がもたらすもの

(一社)空 代表理事     (一社)日本農福連携協会 理事

熊田 芳江氏

私は「農福連携」という言葉が生まれる前の2002年に最初のNPOを立ち上げます。でも農業があまり得意ではなかったので、近隣農家が作る野菜を直販するカフェをはじめました。野菜作りに特別なこだわりを持つ農家の作物を扱ったり、企業と地元食材で商品開発を行うなど「ここでなければ買えない付加価値の高い商品」を販売することで、売上を伸ばしていきました。

私が理事を務める(一社)日本農福連携協会は「地域が抱える課題を解決していくために、農家と福祉施設の双方にメリットある展開を考えていこう」と呼びかけています。いま日本の農家の一番の悩みは、後継者と人手不足です。それを利用者さんたちがどう補っていくか。農業には「百姓」と呼ぶくらいたくさんの仕事があり、さらに細かな作業に切り分けできます。それを障がいや年齢、経験や技能に合わせて配置していけば、農家は悩みを解消でき、利用者さんは自然とふれあいながら健康的に働き、高い給料を得ることができるのです。

以前私は、ヤマト福祉財団の夢へのかけ橋実践塾で、地元の農家や企業などとネットワークを構築し、新しい可能性を広げていく取り組みを塾生たちと実践してきました。その卒業生4名を含めた13名の新塾生たちに、昨年9月から「農福連携実践塾」を開講。農業の技術指導には(NPO)ピアファームの林 博文氏が講師として、商品開発や販路拡大、ブランディングには(株)エスリーブランディングの川田勝也氏がアドバイザーとして参加しています。コロナ禍で全員が集っての研修会は難しいため、塾生のもとに講師たちと出向き、一つひとつ実践的に指導。まだ半年しか経っていませんが、それぞれに独自の工夫を凝らした農福連携を展開しながら、月額平均給料を約1万円近く伸ばしています。

ある塾生は、耕作放棄地を次々と引き取り、田畑を拡大しています。観光地の塾生は、コロナ禍で人が集まらないなら外に販路を広げるだけだと、大手百貨店やネット販売を展開。また、肉まん一商品だけに力を注ぎ、塾生の中で一番の売上を出す者もいます。これから福祉施設には、認定農業者、GAPHACCP、アニマルウェルフェアなど農業や六次化で必要とされる資格も求められるでしょう。しかし最も大切なのは「利用者さんのことを第一に考え進むこと」。塾生たちにも、本日視聴している全国の福祉施設にも、それを忘れずに、それぞれに合った農福連携を実践してほしいと願っています。

実践報告 共通テーマ「高付加価値を目指して」

報告者1 (NPO)農楽郷ここ・カラダ

理事長 日野口 敏章氏

2006年、私は55歳で地元・青森県の建設関連会社を早期退職し、農地と古民家を買い取り、ブルーベリー農園をはじめました。そんな私に行政から「障がいのある方の働く場として協力できないか」と連絡が入ったのです。正直、自信はまったくありませんでしたが「私で良ければ」と福祉の世界に足を踏み入れ、2009年にNPO法人を立ち上げました。

しかし、ブルーベリーだけではなかなか給料を上げることができません。カシスの栽培をはじめたり、下請け仕事を取り入れてみたりと試行錯誤を重ねましたが、なかなか上手くいかない。そこで、思い切って地元の特産品であるにんにくの栽培を生産の柱に切り替えたのです。これが売上を伸ばす打開策になりました。現在は、十和田市に引っ越して農地も2haに拡大。ヤマトさんに助成いただいた耕作機械などを約20名の利用者さんと一緒に使いこなすことで、生産性も一気に向上していました。さらに、にんにくをより高付加価値で販売できるようにと、チップやパウダー、黒にんにくへと加工。スティック状にした商品「いぐなる(地元方言で、良くなる)も開発しました。こうした私たちの仕事ぶりを地元テレビ局などにも取り上げていただくことで、注目度もアップ。青森県の福祉施設の平均工賃が約15,000円の中で、私たちの平均月額給料は33,000円を超えるまでになっています。

現在は、コロナ禍で次第に売上が減少しています。そこで「芽にんにく」を開発し、新しい目玉商品を作り出すことにしました。今後は、にんにくの作付け面積を3.5haに広げ、2年後には給料を4万円へ。また、利用者さんが安心して仕事に取り組めるために、より居心地の良い環境を提供したいとグループホームの新設も目標に掲げ、みんなで力を合わせて頑張っているところです。

実践報告 共通テーマ「高付加価値を目指して」

報告者2 (NPO)EPO EPO FARM

施設長 高橋 智氏

「ゲームばっかりやっている子供たちに、もっと面白い自然や動物とふれあう場所を」と、2000年に静岡県富士宮市でママ友たちとホースセラピーの牧場をはじめました。大はしゃぎする子どもたちを見ながらある母親が「私の子どもは障がいがあるから、やがてみんなと違う学校に通う。でも小さなうちは一緒に遊ばせてあげたいし、またここで再会できたらうれしい」とつぶやいたんです。それを聞いて「よし、みんなでNPOを立ち上げよう」と決めました。

私たちに共感いただいた方たちが賛助会員になり、近隣の山や畑も提供いただきました。畜産をやるならこんなやり方が良いなどプロのアドバイスももらい、地元のネットワークの広がりとともに規模も内容も拡大。現在は、牧場・田畑・山林の面積は約8万㎡になり、馬12頭、羊50頭、にわとり30羽、うさぎや猫、犬も飼っています。ここで生産した畜産物や地元の食材を使ったカフェや森の幼稚園も開き、子どもからお年寄りまで1日に約100名の方が来場。牧場で働く利用者さんは、ホースセラピーを楽しまれる方のサポートから、馬や羊のエサやりや掃除などを担当。カフェでは、調理の手伝いや接客業などそれぞれの個性とやりたいことを選んで生き生きと活躍しています。

ところがコロナ禍になりカフェは休業し、商品の出荷もストップしてしまいました。それを知った方が「より広く三密にならないスペースで新しいカフェを開いたら」と廃屋を提供してくれたんです。するとたくさん地元の方が手伝いに来てくれて「もっと花をたくさん植えよう」「たき火ができる場所があったら面白い」などアイデアを盛り込み、みんなの手作りで新しいカフェが誕生しました。利用者さんと地元の方が一緒に楽しそうに働く姿を見て「これも農福連携がもたらす大きな付加価値なんだ」とうれしく感じています。

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