2022年09月22日 (木)

現地会場:(社福)共生シンフォニー

主催者あいさつ

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

今年度のパワーアップフォーラムは、いままでとは違った新たな試みを取り入れた「現地からお届けするオンラインフォーラム」として開催します。

 

滋賀の現地会場は、複数の事業所を運営し給料増額で成果を上げられている(社福)共生シンフォニーです。現地会場には、二つの福祉施設をゲストとしてお招きしました。ゲスト施設には、視聴者の目となり、耳となり、ホスト施設の利用者さんの働きぶりや働く環境などを見学した感想も伝えていただきます。

 

現在、コロナに限らず、さまざまな変化が私たちに押し寄せています。予想もできない状況下に置かれたとき、どう考え、対応していくのか。これから講演いただく成功事例には、お役に立つヒントがたくさんあると思います。その方法が自分にぴったりでなくても、どう料理し取り入れていくかが大事です。ホストやゲスト施設の決してあきらめない姿勢から、同じ目的に向かう仲間としてたくさんの元気をもらえたら素晴らしいですね。このフォーラムが、みなさんのお役に立つ情報交換の場になることを願っています。

講演 障がいのある人の働く意味 ディーセント・ワークの視点を踏まえて

(NPO)日本障害者協議会 代表

藤井克徳氏

やりがいのある仕事に就き、高い給料を得る「ディーセント・ワーク」は、だれにも平等に与えられるべき権利です。しかし、厚生労働省が発表している最新のデータを見ると、障がいのある人の労働人口年齢(15歳〜64歳)3787,000人に対し、実際に一般就労や福祉的就労で働くことができている人は1333,977人。その就労率はわずか34.4%と、国民全体の約79%の半分にも届いていません。

 

障がいのある人にとって「働く意味」とは、なんでしょうか?私は、次の四つだと考えます。「1.お金を稼ぐ(生活の糧を得る)、2.生きがいややりがいの発揮(自己実現)、3.仲間とのつながり(社会連帯)、4.生活リズムの確立や全身活動(健康の維持)」。でもこれは、障がいのあるなしに関係はありません。だれもが自分らしく生きていく、人と社会とつながっていくために「働くこと」は、欠かせない大切なことなのです。

 

では、どうすれば障がいのある方の就労率を上げることができるのか。労働の三要素として「労働素材・労働能力・労働手段」があります。障がいのある方は、「労働能力」に難があり、それを補えるのが「労働手段」の改善です。たとえば、治具や機械化などで、その人がいままでできなかった作業をできるように支援していく。これは、福祉施設の職員の大切な仕事の一つです。障がいは、本人を取り巻く環境でより重くも軽くも変わっていきます。障がい者という一つのくくりではなく、一人ひとりをしっかりと見つめ支援していく合理的な配慮が、いまこそ求められているのです。

 

障がい者を締め出してしまう社会は、とてももろく崩れやすいものです。それはやがて、シングルマザーに、高齢者へと影響していくでしょう。大切なのは、他者との平等を基礎として考えていくこと。「私たち抜きで、私たちのことを決めないで」。国連で発言された障がいのある方たちのこの声を改めて心に刻みながら、働く意味とはなにか、私たちになにができるのかをご一緒に考えていきたいと思います。

 

ホスト講演 テーマ「私たちの軌跡と高工賃への取り組み」

(社福)共生シンフォニー 常務理事

中崎ひとみ氏

事業所の報告者

がんばカンパニー 所長 水野 武さん

はっぴぃミール・ほわいとクラブ所長 荷宮将義さん

滋賀会場は、2021年に建設した「びわこ共生モール」で、障がいのある方のショートステイ施設や相談所、重度の心身障がい者も安心して過ごせる医療的ケアを備えた施設、さらに就労を目指す方の学び舎と、さまざまな機能を集合した複合施設です。いまでこそこんな立派な施設を持つことができていますが、約30年前に私が入職した当時は、オンボロ木造アパートの6畳一間でした。

 

それを変えたのが、添加物などを一切使用しないクッキーです。最初は販売だけを行っていたのですが、健康ブームに乗って多くの消費者の注目を集めリピーターが急増します。売上も利用者さんの給料も着実に上がり、入所希望者もどんどん増えていきました。しかし、そこで一つの懸念が生まれます。「いまの体制で利用者さん一人ひとりに目が行き届いた支援ができるのだろうか」。そんな課題を解消するため、事業所別に担当を分けることにしたのです。A型やB型事業所、ケアやデイサービスの施設、障がい者運動の施設などを作り、それぞれに役割を分担。現在では、自分たちでクッキーを製造できる工場も含めた11の事業所を運営し、障がいのあるなしに関係なく、できる人ができることをやり、互いに支え合える体制を整えています。

今日は、そのなかから三つの事業所の所長に報告をしてもらいましょう。

 

  • がんばカンパニー

焼き菓子工場のA型事業所「がんばカンパニー」の所長の水野です。がんばカンパニーは、自社オリジナル商品、大手企業のOEMやコンビニ商品などの企画製造で、毎年売上約13,000万円を達成しています。

生産量は1日平均400500㎏。多い時は1トンにもなるため、利用者さんの力を合わせなければとても納期に間に合いません。工程を細かく切り分け、各作業のやり方をわかりやすくパターン化。さまざまな治具も用意して、たくさんの利用者さんが参加できるようにしました。例えば原材料も「これくらい」などの目分量ではなく数字で明確に示すことで、高い品質の商品を安定して生産。コロナ禍で売上が落ち込んだ時期もありましたが、お取り寄せブームで通販が伸び、2021年度の月額平均給与は約12万円を維持しています。

ここで働く利用者さんは「一人暮らしする人、結婚する人、一家の大黒柱として家族を支える人」などがたくさんいます。「企業では無理でも、がんばカンパニーでなら働ける」そんなセーフティネットの役割も、私たちが担っているつもりです

 

  • はっぴぃミール・ほわいとクラブ

給食事業を行うA型事業所「はっぴぃミール」の所長の荷宮です。ここでは、グループホーム13ヵ所の昼食・夕食、企業、法人内の給食など、毎日約250個のお弁当を配食し、月額平均給料約は117,000円。利用者さんの仕事は、下準備、調理、盛り付け、配達など多岐にわたりますが、刻み食などの調理方法や食品衛生もしっかりと理解し、調理の主役として活躍しています。毎朝、自分たちで話し合って仕事の分担を決定していく姿は、頼もしい限りです。

私は、施設外就労が中心のB型事業所「ほわいとクラブ」の所長も兼任しています。仕事は、マンション清掃、公園の清掃・除草、不要品整理・ハウスクリーニング作業などです。利用者さんは3〜4人のグループで現場に向かい、作業をしながら「働くイメージ」と「働く力」を高め、一般企業の就労へ繋いでいます。他社が気づかないところも清掃し、片付け方もとても丁寧だと高評価をいただいていますが、それもみんなが仕事に誇りを持ち、より高い給料を手にしたいと頑張っているからです。

 

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三事業所の報告はいかがでしたか。私は、これまでいろんな失敗をしてきましたが、それが次に向かうエネルギーになっています。コロナ禍での苦い経験も通販と言う新しい活路につながりました。私から視聴者のみなさんへのメッセージは「後悔するな! 」です。できない言い訳なんてしないで、利用者さんのためにチャレンジしていきましょう。

ゲスト報告1 テーマ「コッペのあゆみと高工賃への取り組み」

(認定NPO)麦の会 コッペ 代表理事

飯嶋 茂氏

宮城県仙台市のコッペは、「地場や国産の小麦や食材を使って安全で美味しいパンやクッキーを作っている普通のお店に、たまたま障がいのある方も一緒に働いている」そんなB型事業所です。私たちがずっとこだわっているのは、障がいのある人の労働権利を守り、障がいの重い軽いに関係なく、同じように高い給料を支払えるようにしていくこと。人には得意・不得意がありますが、最初からできないと決めつけず、まずはいろいろとやってみる。その上で、自然に自分に適した仕事に定着していくように支援します。

 

私たちは、商品作りのノウハウには自信を持っていますが、販売となると別のノウハウが必要です。店舗販売ではなく、卸売り中心に事業を展開し、OEMの依頼にも対応して売上を伸ばしてきました。大事なのは、自分たちの生産能力を踏まえた上で、価格交渉を行うこと。品質はもちろん、納期などの要望にもしっかり応え、衛生管理も徹底することで信頼を獲得し、月額平均給料約5万円を支払える売上を達成しています。

 

しかし、コロナ禍で注文は激減し給料がダウンしてきました。このピンチを救ってくれたのは、地元を含めた人とのつながりです。地元の生協などから新たな注文をいただき、街づくり団体やコーヒー店とコラボした新商品も開発。それを通販という新しい形で販売することにもしています。ソーシャルプロダクツ・アワード2022では、「コッペのフェアトレードクッキー」がソーシャルプロダクツ賞を受賞もできました。利用者さん、職員、そしてさまざまな方たちと力を合わせて課題を乗り越え、以前の給料以上に必ず回復してみせます。

 

  • ホスト施設を見学した感想

作業手順がとても明確で驚きました。同じくクッキーを製造する私たちも工夫はしていますが、共生シンフォニーさんは1段階高いレベルにいる。職員だけでなく利用者さんも一緒になって進められている点を参考に「今より前へ」と勇気を持って進んでいきます。

 

ゲスト報告2 テーマ「ピュアチョコレートで地域活性化!」

社福)平成会 多機能型事業所あさひ サービス管理責任者

岩岡智之氏

広島県広島市よりやってきましたB型事業所のあさひです。私たちは、広島県特産のカキの養殖で使用するホタテの貝殻に針金を通す作業などの下請け作業、さらにパイプ工場での施設外就労や給食事業などを行っていました。ところが4年前の西日本豪雨災害で、仕事は完全にストップしてしまったのです。「いまのままではダメだ。これからは、災害時にも利用者さんに安定して提供できる仕事を創り出し、私たちの力で地域を活性化する」そう決心しました。

 

大切なのは「地域に貢献できる商品を、自分たちが主体となって生産すること」です。でもなにを作れば良いのか・・・。アンテナを張り巡らし試行錯誤するなかで着眼したのが「ピュアチョコレート」です。まずは、地元・広島大学のチョコレート博士として有名な佐藤先生のワークショップに参加してみることに。すると、カカオ豆の皮むき作業には人手が必要で、たくさんの利用者さんが参加できるとわかりました。利用者さんに話をすると「チョコレート職人ってカッコイイ!」と大賛成。佐藤先生から高品質のチョコ作りを成功させるための専門知識・技術・ノウハウなどをご指導いただけることになり、まさに先生と二人三脚でBean To Barチョコレート作りを開始しました。

 

もう一つ重要なのは「情報発信」です。いくら美味しい商品でも知ってもらえなければ意味がありません。私たちは「福祉施設が地域に貢献しようと地元の方たちと力を合わせて作ったチョコレート」というストーリーでSNSを駆使してアピールしました。これがマスコミにも取り上げられ、ECショップにはエシカル消費の観点からも多くの方に注目いただけるようになってきました。

現在は、大型メランジャーなどの機械をヤマト福祉財団さんに助成いただき、生産体制も強化。地元の廃校になった小学校を工房に改造し、「ここに来れば利用者さんも地元の方も元気になれる」そんなカフェにしていこうとみんなで盛り上がっています。

 

  • ホスト施設を見学した感想

大事なのは、福祉の枠に縛られない発想。そして「思い立ったら、即行動」することですね。拝見した障がいの重い軽いに関係なく働くことができる環境作りと高い給料を支払う仕組み作りを、早速、職員と共有し実践します。

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