2022年11月25日 (金)

現地会場:(社福)はらから福祉会

主催者あいさつ ~現地からお届けするオンラインフォーラム~

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

 

今年度のパワーアップフォーラムは、いままでとは違った新たな試みを取り入れた「現地からお届けするオンラインフォーラム」として開催します。

 

宮城の現地会場は〝障がいの重い軽いに関係なく、生きがいを持って働き高い給料を得ること〟を目標にされている(社福)はらから福祉会です。現地会場には、二つの福祉施設をゲストとしてお招きしました。ゲスト施設には、視聴者の目となり、耳となり、ホスト施設の利用者さんの働きぶりや働く環境などを見学した感想も伝えていただきます。

 

現在、コロナに限らず、さまざまな変化が私たちに押し寄せています。予想もできない状況下に置かれたとき、どう考え、対応していくのか。これから講演いただく成功事例には、お役に立つヒントがたくさんあると思います。その方法が自分にぴったりでなくても、どう料理し取り入れていくかが大事です。ホストやゲスト施設の決してあきらめない姿勢から、同じ目的に向かう仲間としてたくさんの元気をもらえたら素晴らしいですね。このフォーラムが、みなさんのお役に立つ情報交換の場になることを願っています。

 

講演 障がいのある人の働く意味 ~ディーセント・ワークの視点を踏まえて~

(NPO)日本障害者協議会 代表

藤井克徳氏

やりがいのある仕事に就き、高い給料を得る「ディーセント・ワーク」は、だれにも平等に与えられるべき権利です。しかし、厚生労働省が発表している最新のデータを見ると、障がいのある人の労働人口年齢(15歳〜64歳)3787,000人に対し、実際に一般就労や福祉的就労で働くことができている人は1333,977人。その就労率はわずか34.4%と、国民全体の約79%の半分にも届いていません。

 

障がいのある人にとって「働く意味」とは、なんでしょうか?私は、次の四つだと考えます。「1.お金を稼ぐ(生活の糧を得る)、2.生きがいややりがいの発揮(自己実現)、3.仲間とのつながり(社会連帯)、4.生活リズムの確立や全身活動(健康の維持)」。でもこれは、障がいのあるなしに関係はありません。だれもが自分らしく生きていく、人と社会とつながっていくために「働くこと」は、欠かせない大切なことなのです。

 

では、どうすれば障がいのある方の就労率を上げることができるのか。労働の三要素として「労働素材・労働能力・労働手段」があります。障がいのある方は、「労働能力」に難があり、それを補えるのが「労働手段」の改善です。たとえば、治具や機械化などで、その人がいままでできなかった作業をできるように支援していく。これは、福祉施設の職員の大切な仕事の一つです。障がいは、本人を取り巻く環境でより重くも軽くも変わっていきます。障がい者という一つのくくりではなく、一人ひとりをしっかりと見つめ支援していく合理的な配慮が、いまこそ求められているのです。

 

障がい者を締め出してしまう社会は、とてももろく崩れやすいものです。それはやがて、シングルマザーに、高齢者へと影響していくでしょう。大切なのは、他者との平等を基礎として考えていくこと。「私たち抜きで、私たちのことを決めないで」。国連で発言された障がいのある方たちのこの声を改めて心に刻みながら、働く意味とはなにか、私たちになにができるのかをご一緒に考えていきたいと思います。

ホスト講演 テーマ「より障がいが重い人を働き手に」 ― チーム化、機械化、意識化を通して ―

(社福)はらから福祉会 理事長

武田 元氏

はらから福祉会は、宮城県内に八ヵ所のB型事業所を運営し、さまざまな障がいのある方たち約250人が、地域の方に長年愛され続けるはらから豆腐、ふるさと納税返礼品にも選ばれている牛タンなどの高品質な商品を製造しています。2021年度の法人全体の売上は約10億円、月額平均給料は約56,000円です。しかし、私が40年前に事業所を開所したときからずっと目標にしているのは「どんなに障がいが重くても働いて暮らせるだけの賃金7万円」。それを実現するために、いま私たちは「チーム化・機械化・意識化」の三つに取り組んでいます。

 

高賃金を払うには、高品質な商品を大量生産しなければなりません。しかし、高品質な商品には技術の高い仕事が求められ、担当できる人が限られてきます。私たちは、技術の高い仕事を難易度の高・中・低と分解し、障がいが重い人にも適した単純作業を生み出し、多くの人が参加できるようにしました。

全利用者さんがそれぞれの持っている力を発揮し、品質の高い商品を量産化できる仕組み、これが私たちの考える「チーム化」であり、それを実現するには、職員の力量が問われるのです。

 

次に課題となったのが、難易度の高い仕事をどうやって単純化していくかでした。それを解決したのが「機械化」です。機械導入は、効率・生産性アップに行われていることが多いですが、私たちは障がいの重い人もやりがいのある仕事に参加できる手段としても捉えています。たとえば、牛タン加工を行う「えいむ亘理」では、高品質な牛タンに欠かせない目入れ作業を機械化で単純化。限られた人にしかできなかった職人技の手作業を、機械操作を覚えれば担当できるようにしました。利用者さんが「より価値のある仕事に従事できるようにする」ことが「機械化」のもう一つの目的なのです。

 

三つ目は「意識化」です。はらから福祉会が40年かけてもなかなか良い結果を出せなかった難しい課題。それは「こだわりの強い自閉症の方たちの仕事への参加」でした。どうしたら自分の世界に閉じこもらず、みんなと仕事ができるようになるのか、具体的にどう支援したら良いのか。この課題を研究する専門の支援チームを作り、さまざまな研修会にも参加して勉強を重ね、たどり着いたのが「意識化」です。

 

はらから福祉会には、毎朝こだわりの強い利用者さんたちが手をつないで一緒に通所してきます。これは「集団への慣れと適応力」を育むためです。他にも歩行訓練やリズム運動、トイレや着替えなど、できるだけ集団で行動することで、利用者さんに変化が現れ始めました。こだわりの強いマイペースの人が、周りに合わせる「ユアペース」に変わってきたのです。「集団で体を動かす→働く」を交互に取り入れ、1日の流れのなかに「仕事をすること」をパターン化。この意識化により、問題行動も随分と減ってきています。

 

障がいの重い利用者さんも「やりがいのある仕事をしたい、人の役に立ちたい」と願っています。その気持ちに応えるためにも、私たちは収益性の高い事業を作り出すとともに、だれもが参加できる多様な作業と十分な仕事量を用意しなければなりません。それができれば、利用者さんは「次はあの仕事をやりたい」と新しい目標を持って働くこともできます。幸せになる権利に例外はありません。私たち福祉に携わる者は、それを決して忘れてはいけないのです。

ゲスト報告1 テーマ「高工賃支給の秘訣」

(社福)オリーブの樹 理事長

加藤裕二氏

「障がいのある方が地域で暮らせるだけの工賃」を目指し、1984年、千葉県千葉市にオリーブの樹は、前身となる小規模作業所を開設しました。当時の事業所の仕事といえば企業の内職でしたが、単価は低くいくらやっても工賃は増えません。そこで私たちは、利益率の高い自主製品の製造販売を始めたのです。

 

着眼したのは、地元食材にこだわったクッキーやケーキです。生産した商品はなんとか売り切るんだと、イベントなどへの参加はもちろん、毎日のように街頭販売も行いました。その際にこだわったのは、利用者さんが販売員となる「対面販売」です。地域の方に障がいのある方の働く姿を見てもらい、理解を深めてもらいたいという願いも込めていました。

 

私たちは、さらなる給料増額を目指し、2005年からはアイスクリームとお弁当も加えた3本柱で事業を進めます。しかし、なかなか売上は伸びず壁にぶつかってしまいました。そんなとき私は、小倉昌男さんの「いろいろ悩むより払いたい賃金を払ってしまえ! 」の言葉を聞き、衝撃を受けます。

2007年、思い切って3事業所をA型事業所に移行し、最低賃金を払わなければならない状況にしてしまいました。すると職員は「なんとしても売上を伸ばさなければ! 」と必死になり、新たな販路開拓や市場にあわせた商品開発など、取り組み方が随分と変わってきたのです。こうした私たちの活動に注目いただいた団体や学校からオファーもいただき、月の売上は200300万円に、A型・B型を合わせた法人全体の月額平均給料は、約6万円に伸びていきました。

 

現在、私たちはコロナ禍で大きな打撃を受けています。イベントや会社販売などの施設外での販売が中止になり、売上は大きくダウン。特に季節や天候の影響を受けやすいアイス事業は、B型への移行を余儀なくされました。でも私たちはあきらめません。イベントに参加できないなら自分たちの手で販売していこうと5万枚のポスティングを展開。さらに宅配事業とオンラインショップも開設することで、法人向けの大口販売を獲得、クッキーや弁当の売上減少を最小限にとどめています。私たちのキーワードは「払ってしまう」。これが、高い給料を支払えるようになる一番の秘訣です。

 

  • ホスト施設を見学した感想

はらから福祉会は、衛生管理はもちろん、機械化もライン化も福祉施設のレベルを超えて、まさに食品会社のようです。障がいの重い方も働くことができるようにあそこまで投資する勇気を、同じ経営者として敬服します。

ゲスト報告2 テーマ「私たちが歩んできた高工賃への取り組み」

(社福)かしのみ福祉会 理事長

小俣弘美氏

山梨県内で三つの事業所を運営するかしのみ福祉会は、地元特産の果樹を使ったドライフルーツやコンポートなどの製造販売を事業の柱にしています。2021年度の月額平均給料は約35,000円ですが、私がかしのみ福祉会で働き始めたころの利用者さんの月額平均給料は約3,000円。「障がいがあるとこんなお金で生活しなければならないの!?」と憤りを感じたことをいまでも覚えています。

 

なんとかしたいと考え、施設外就労などの新たな仕事を獲得しましたが、これでは一部の利用者さんしか給料を増額できません。「もっとたくさんの利用者さんが働ける自主製品の製造販売を事業の柱にしたい」と、夢へのかけ橋実践塾・武田塾に入塾にしました。給料は1万円以下、原価計算もできない私は、塾ではまったくの落ちこぼれ。それでも「給料5万円と目標を決めたのだから必ずやり遂げてみせる!」と「覚悟」を決めます。飛び込み営業をしたり、消費期限のない商品をロスの無いように売り切るなど、武田さんの出す課題に一生懸命に取り組むことで、次第に営業する力と販売する力が備わってきました。

 

美味しいドライフルーツを作る専門技術を学ぶとともに、ヤマト福祉財団さんの助成を得て安定して量産化する機械も導入。商品作りの体制が整ったら、次は販路の拡大です。私は商工会に入りネットワークを作ると、いろいろなところに営業しました。最初は大変でしたが次第に商品の魅力を認めていただき、現在は山梨のお土産品として道の駅やSAなどにも置いていただいています。

 

もっと消費者を惹き付ける商品をと開発に力を入れ、飲めるゼリーやパウンドケーキなど種類も充実。いまではふるさと納税の返礼品にも選ばれ、京王百貨店で定期販売もさせていただいています。ネット販売も手がけることで売上が伸び、多い月は8万円の給料を支払うことができたときもあります。でも平均5万円にはまだ届いていません。「やると決めたら無理だと思わず、根気よくやり続ける」。その「覚悟」で、利用者さんのためになにができるか工夫し続けていきます。

 

  • ホスト施設を見学した感想

塾長の施設を訪れる度、新しい機械が導入され、重度の方の仕事がどんどん増えていきます。それを可能にできる仕事量を取ってくる営業力も凄い!自閉症の方たちが集団で行動し働くという方法も、ぜひ参考にしたいと思います。

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