2023年01月12日 (木)

東京都立産業貿易センター浜松町館

主催者あいさつ  3年ぶりのリアル会場にみなさんをお迎えして

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

 

東京会場は、コロナウイルス感染対策として人数制限は設けましたが、3年ぶりのリアル会場で約100名の方に参加いただくことができました。さらに、来場いただけない多くの方も視聴参加できるようにオンライン配信も行っています。

 

本日ご登壇いただく講演者や報告者が、日々、障がいのある方たちとどう向き合っているのか。自らの体験に基づくお話から、みなさんのこれからの活動に役立つヒントを一つでも多く持ち帰ってください。たとえその方法が自分にぴったりでなくても、どう料理し取り入れていくかが大事です。同じ目的に向かう仲間として、成功されている方たちの決してあきらめない姿勢からは、たくさんの元気もいただけると思います。

 

さらに、障がい者の権利条約についての国際動向と日本の現状についても学びながら、障がいのある方たちがコロナ禍でも幸せになれるように、私たちになにができるのかを、ご一緒に考えていきましょう。

基調講演 「障害者権利条約とソーシャルインクルージョン」

(NPO)日本障害者協議会 代表

藤井克徳氏

「私たち抜きで私たちのことを決めないで!」障がいのある方たちの切なる思いを反映し作られた障害者権利条約が、2006年に国連で仮採択されると、会場には拍手と足踏みの音が響き渡り、人々はハグし喜び合いました。障害者権利条約は、世界で初めての障がい者問題の世界ルールです。そこに記された内容は、どれもきらきらしています。しかし12年が経ち、2022年に国連が日本政府に初の審査・総括所見した内容は、とても手厳しいものでした。

 

国連が日本政府に示した改善勧告には「日本の障がい者は、働く場も、どこでだれと暮らすかすらも選択できない状況にいる」という現実が指摘されています。私は、それを改善していく上で必要なことの一つが、障がい者という一つのくくりではなく、一人ひとりをしっかりと見つめ支援していく「合理的な配慮」だと思っています。

 

「合理的な配慮」は、3段階で説明できます。視覚障がいのある人が地下鉄を利用する例で説明してみましょう。駅の改札までは、階段ではなくスロープを歩いたり、エレベーターで向かうことができます。これは高齢者や大きな荷物を持つ方などみんなが利用できる1段階目のユニバーサルデザインです。二段階目は、改札で切符を買う際の券売機の点字、ホームに向かって歩く際の点字ブロックで、これは目が見えない方に共通の支援となります。さぁホームに到着しました。ところが点字ブロックの上に荷物があり動けない。すると駅員さんが声をかけ、助けてくれました。他にも電光掲示板が故障しているようで耳の聞こえない方が困っていると、駅員さんが筆談で手助けを始めました。こうした一人ひとりへの支援が、三段階目の合理的な配慮です。

 

合理的配慮は、障がいのある方が働く上でも大切なことです。国際的な交流を深め、他国のモデル事例を学べば、社会や職場で取り入れることもできます。でもこれは政府だけの問題ではありません。福祉に携わる者が、もっと国際的な動向にも関心を持っていただき「学び、周りに伝え、現場で生かす」ことで、福祉の現場でより良い実績を一つでも積み重ねてもらえたらと願っています。

特別講演 「知的障がい者の就労支援の在り方」

(社福)武蔵野千川福祉会 理事長

菅野 敦氏

 

私は、2010年から夢へのかけ橋実践塾・新堂塾のアドバイザーとして「利用者さん一人ひとりの働く力を育て、豊かな暮らしを実現する支援」について、塾生と一緒に学び、考えています。

 

最初にやるべきは、利用者さんに「働くとはなにか」を理解してもらうことです。働くことで給料をもらい、仲間や趣味などの楽しみも増えていく。さらに社会で自分が必要とされる喜びを知れば、働く意欲はより高まっていきます。では、いま利用者さんが行っている仕事は、社会のどんな所で役立っているものですか。それに見合うだけの売上、給料になるものですか。職員は「働くことこそが利用者さんの自立と社会参加への第一歩」であるという強い意識を持ち、仕事を創出しなければならないのです。

 

「働く力を伸ばす」とは「できることを増やしていくこと」です。そのために私たちは「仕事の提供の仕方」を絶えず工夫し続けなければなりません。まずは、仕事の工程を分析し、よりたくさんの作業へと細分化してみましょう。次に取り組むのが、利用者さん一人ひとりの「アセスメント」です。各人の能力・意欲を正確につかむことで適材適所での配置と、次のステップへと進むために必要な治具や働く環境づくりも具体的に行うことができます。働く環境と言えば、「整理・整頓・清掃・清潔・躾」の5Sが思い浮かぶと思いますが、利用者さん自らが実践できるようにするには、仕事の工程を可視化し、流れに沿って物を配置するといった工夫が必要です。5Sの実践とは、単純な整理整頓だけではなく、働きやすい職場づくり。つねにより良い形へと変化させ、利用者さんの働く力を伸ばす支援であると、職員は意識して取り組んでほしいと思います。

 

私たちが目指す支援は、利用者さんが人との関わりを通して、学ぶ力、働く力、そして暮らす力を育てていくこと。〝働く力〟を伸ばすことで、やがては周りと協調・協力できる〝働く態度〟も育っていくのです。

 

小倉昌男賞受賞者講演 「企業の信頼が高くなる施設外就労」

(社福)維雅幸育会

統括管理者 奥西利江氏  理事長 村田輝夫氏

「(社福)維雅幸育会は、上場企業4社などとの請負契約による施設外就労で、A型の月額平均給料は10万円以上、B型も約75,000円を実現しています。でも最初から施設外就労を目指したのではありません。最初は、当時(株)ミルボンで生産本部長をされていた村田さん(当法人理事長)に〝ミルボンさんで特例子会社を作ってもらえないか〟と相談し、一緒に各地の特例子会社を見学しました。しかし、そこで見たのは、障がいのある方に本業の仕事は難しいと、清掃作業などを担当している利用者さんの姿だったのです」と奥西氏は話します。

 

「これが本当にあなたの目指している姿ですか?いっそのことうちの会社に施設ごと入ってきて、本業のラインでしっかりと働く〝施設外就労〟をやってみたら?うちは品質も納期もしっかり確保して働いてくれればなにも問題はない。機械化などの工夫をして生産効率を上げるのは企業として普通のことだから、奥西さんが利用者さんにとって働きやすい環境を考え、うちのラインに取り入れていけば良いから、と提案したのです」と村田氏も振り返ります。

 

「村田さんからは〝仕事がきちんとでき成果を上げているのなら、障がいがあるから、福祉施設だからといって絶対に安売りしてはいけない〟とのアドバイスもいただき、一般の請負会社さんと同じくらいの単価で仕事をさせていただいています」と奥西氏。「そんな(株)ミルボンでの施設外就労の話が他の法定雇用率に悩む地元の大手食品や化粧品会社などに伝わるとみなさん関心を持ち、見学にやってきました。利用者さんの働く姿を見ると、これはうちでもできそうだとなり、次々と施設外就労先が増えていったのです」と村田氏。「いま私たちは、企業・障がいのある方・福祉施設のみんながWin-Winになれる施設外就労を〝インクルーシブな働き方モデル〟として全国に発信しています」とお二人は講演を締めくくりました。

 

実践報告1 「工賃向上を目指した10年間」

(NPO)出愛いの里福祉会 障がい者支援センター出愛いの里 施設長

髙橋勝茂氏

2010年に新堂塾に入り、より単価の高いDM事業で給料増額を目指してきました。とにかくDMの仕事を取ってこなければと100件近く電話営業を行い、やっと顧客を獲得。納期も単価もぎりぎりの厳しい要求だったのですが、とにかく目の前の仕事が欲しくて見切り発車してしまったため、結局は自分たちだけでは対応できず、周りの福祉施設に助けを借りる結果に。このとき、利用者さんの働く力を伸ばし、生産性を上げることがなによりも大切なのだと痛感しました。

 

そこで新堂塾長や菅野先生に学んだ方法を地道に実践。作業工程を細かく分け、治具や機械も導入。10年近くかかりましたが、入塾時わずか6,000円だった月額平均給料を45,000円まで増額することができました。給料が増えるたび、利用者さんは成長していきます。月3,000円のころは大好きなアーチストのCD1枚買うだけで精一杯だった方が、5万円を超えるようになるとご両親にお年玉を贈り、グループホームで自立の一歩も踏み出すことに。いまはコロナ禍で現状維持も大変ですが、生き生きと変わっていく利用者さんの姿を思い浮かべ、施設外就労も視野に巻き返しをめざしているところです。

 

実践報告2 「自然栽培チャレンジ報告」

(一社)農福連携自然栽培パーティ全国協議会 理事長

磯部竜太氏

農業には〝百姓〟というくらいたくさんの仕事があり、利用者さんはそのなかから自分の得意な仕事を選ぶことができます。周りのみんなに必要とされる喜びを感じながら、青空の下で土に触れ楽しそうに働く利用者さんたちを、私たちは〝農福師〟と呼んでいます。

 

無農薬・無肥料の自然栽培は、食べる側にも作る側にも安心安全です。しかも慣行栽培や有機栽培に比べてコストがかからない上、商品価値が高く収穫量が少なくても売上を確保できます。いまや自然栽培は、地域活性化と障がい者の自立に繋がるキーワードとして注目を集め、私たちのパーティに参加している農家、福祉施設などの仲間は125団体以上にも増えました。なかには、ヤマトグループさんのように社会貢献の一環として、農福師と一緒に汗を流し農作業に参加される企業もいます。コロナ禍で大勢の人を集めるイベントは自粛していますが、いろいろな企画を凝らし、農福師の明るい笑顔と美味しい作物やそれを使った商品で、日本中に元気を届けたいと思っています。

 

実践報告3 「沖縄県発 ゆいジョブ! 活動報告」

(社福)若竹福祉会

吉川嘉朝氏

沖縄パワーアップフォーラムは、ヤマト福祉財団さんの応援を受け、2018年に3年計画でスタートしました。私たち実行委員は、複数の分科会で沖縄の福祉施設と地元企業などが力を合わせて地域を活性化できるさまざまな企画を立案。準備を進め、いざ実現していく段階となった2020年、予想もしていなかったコロナの影響を受け、思うように活動できなくなってしまったのです。

 

それでも各島の実行委員は、地道に連絡を取り合い、やっと完成したのが、働きたい障がい者と雇用したい企業を結ぶポータルサイト〝ゆいジョブ!〟です。イメージキャラクターの〝おきチャン〟は、利用者さんが描いたイラストが原案になっています。そして2021年、特別支援学校の生徒たちも参加した待望のイベント〝おしごと発見フェア〟も開催。合同企業説明会には18社が、おしごとチャレンジ体験コーナーには7つのブースが並び、大盛況となりました。私たちは、これからも地元のみなさんと力を合わせ、マルシェをはじめとする参加型のイベントなどを企画し、当事者の思いに応えられる活動を続けていこうと考えています。

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