2023年09月12日 (火)

現地会場:波松ステイ・なみまちCAFE (ホスト (NPO法人ピアファーム)

主催者あいさつ

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

福井県の農福連携でとても活躍されているピアファームさんの観光農園にお邪魔しています。ブドウがたわわに実っておりまして、観光のブドウ狩りの方々も何人かいらっしゃっている。実際に農福連携で、障がいのある方みなさんと一緒に作られている現場にお邪魔しています。

 

今日は、農福連携を中心に、いろいろな皆さんの実践事例をお届けして、ご覧になっているみなさまの日頃のご活動に少しでもお役に立つようなことがあればと思っています。

 

ヤマト福祉財団も1993年に宅急便の生みの親である小倉昌男が設立してから、おかげさまで30年を迎えることができました。障がい者を取り巻く環境、いろいろと変化してきておりますが、これからもヤマト福祉財団は障がいのある方と、障がいのない方、みんなが一緒に幸せに暮らせる社会を目指して、障がい者の自立支援にさまざまな支援をしていきたいと考えています。

ホスト講演 テーマ「農業で工賃向上!」

NPO法人ピアファーム 理事長

林博文氏

2008年に法人を設立後、大きな契機になったのは、2011年に、あわら市の認定農家になったことです。それをもって企業的園芸規模拡大ということで、ブドウの栽培に着手しました。さらに2015年に癒しの果樹園あわらベルジェを設立しました。

 

果樹園に取り組んだ理由は、福井県は園芸の後進県で、競争相手が非常に少ない。さらに、福井県は稲作での大規模化、AI化が進んでいて、手間のかかる果樹は敬遠されてしまいがちなことも挙げられます。

 

農業に取り組むなら中途半端な農業をしたくなかったので、本物の農業を目指すということで、農業に特化していきました。別に農福連携をやるのではなくて、普通のパンやクッキーを作るのと同じように農業に取り組んだということです。

観光ぶどう園、ワイン、ジュースの製造をOEMでやっていて、県内の施設やスーパーに販路を広げています。地域に開かれた事業所として対応しているということです。

 

ピアファームでは認定農家とB型が一緒に走る形を取っています。別にA型でもいいんですが、うちはB型でやっています。基本的に事業の目標を工賃向上にしていて、生きがいを持って働きながら、福祉の面では多様な課題を持つ方に応える働き方を提供する。1時間でも2時間でも、来た以上は働くことに集中していただき、高い工賃を払いますと言っています。

農業は、障がいのある人の仕事が、通年を通してたくさんあります。1月から6月の仕込み、7月から12月は販売の期間です。もう一つ、農業は一人一人の状態にあった作業が可能だということです。

 

平成25年に、国の再生事業を使って耕作放棄地を整備しましたが、その時にヤマト福祉財団様からのジャンプアップ助成金を受け、この計画でうちは伸びたなと思います。

大切なのは中期・長期の計画を立てることです。計画を立てるために大事なことは記録をとること。うちでは天候や気温変化の作物の影響などを毎日、記録してきました、これを元に改善点を洗い直し、毎年新たな栽培計画を立てています。助成金の申請は、施設の理念や現状を明確にして、事業を自分なりにまとめなくてはならず、それによって問題点も見つかってきます。助成金は、成功を助けます。

 

講演 国連・総括所見と障害のある人の就労分野

(NPO)日本障害者協議会 代表

藤井克徳氏

障害者権利条約の第27条に、障がいを持った人の働く権利の在り方を詳しく書いてあります。簡単に言うと、作業所問題は論争があること。現在、労働市場に行くのが当たり前。アメリカやイギリスはそういう考え方です。一方で、労働市場に放り込まれたら、心に傷がついたり、嫌な思いをしたり、「もう二度と働きたくない」となる可能性が高い。この論争があります。

 

それでも権利条約は50年後、70年後を見ていますから、やっぱり、労働市場の統合、これを強く押し出しています。インクルーシブに働くことに関わってくる。インクルーシブとは、"分けない"。そうなると、B型は一般労働市場と分離しているということで、これはインクルーシブではないということになります。

ただし、今の生産性一辺倒、あるいは効率や速度一辺倒の環境に、障がい者が入り込むのはむしろ危険である、B型は残すべきだ、という議論もあります。

 

もっと大事なことは、B型にも労働法規を適用できないかという問題です。労働市場に行く人もいらっしゃる。B型、A型に来る人もいらっしゃる。しかし、労働法規という点では一元化する。ドイツはすでに、労災保険あるいは失業保険、さらには労働安全衛生法などを福祉的就労にも適応をしているところです。フランスも検討に入っています。

 

私たちが使う言葉に独特の言い回しがありますね。利用者、工賃。これらを早速改めていかないとならない。なぜ、賃金という言葉を使わないのか。なぜ、従業員という言葉を使わないのかという点で、私たちでもできることが、もっともっと言葉つかいを含めてあるはずだということですよね。

 

ただ、この工賃と賃金では、最低賃金法の関係もありますから簡単ではありません。でも、ドイツなんかでは準労働者という言葉を使っていますので、日本でも、こういう言葉遣いを見習いたい。あるいはちょっと引っかかるなという気持ちを持っていただく。言葉のインクルーシブ。こういった言葉使いも、社会で通用している言葉の方向に持っていくように考えてもいいのではないかと思っています。

 

 

ゲスト報告1 テーマ「農福連携による高工賃の実現」

社会福祉法人ゆずりは会 菜の花 管理者

小淵久徳氏

私の所属する社会福祉法人ゆずりは会の法人理念は「高工賃と就労支援」という、シンプルなことばで表現しています。平成18年、ゆずりはという事業所でスタートし、現在、私の所属している菜の花という事業所は、平成26年、ゆずりはからのれん分けをし、現在はB型単体の事業所になっております。

 

私たちの高工賃に向けた取り組みは、ヤマト福祉財団のみなさまとの出会いが大きなターニングポイントとなりました。菜の花は、平成27年に第1期熊田塾、農福連携実践塾に参加しました。それまでの作業の見直しを行い、農業を中心に作業をシフトし、PDCAサイクルを回すことでした。それで年間栽培計画の重要性に気づいたのです。それが収益性の高い作物の選定や天候を考え1年を通して取り組める作物の選定、機械化にも繋がりました。

 

1期熊田塾に参加した平成27年の事業所の売上は550万円で、B型の工賃は27,000円でした。法人で目指していた工賃5万円に達したのが令和3年。令和4年度はタマネギの高騰もあり、事業所全体の売上が3,400万円、工賃は76,000を越える支給となりました。

 

農福連携を進めるために就労支援と生活支援のバランスというのが、私自身すごく大事だと感じています。生活支援は、生活における障がいを少し軌道修正しているだけであって、その人自身を組み立てているのは、就労の部分であると常日頃感じています。就労支援にフォーカスをしながら、必要な生活支援を漏れずにやっていくのは、特にB型の事業所では必要なバランスだと思っています。

 

外とつながることも目指しています。お米の苗の販売、田植えや稲刈り体験では、地域の小学校のつながりもできました。お米の乾燥センター事業では60軒近くの農家さん取引をさせて頂いて、そういう中でも「菜の花」の存在を知って頂けるようになりました。他にも原料を提供してOEMで製品にしていただく、甘酒、麦を提供した農福連携のクラフトビール、地元の酒造へお米を提供して日本酒にもなっています。

 

こういった取り組みを令和4年度に「ノウフクアワード2022」でグランプリを頂戴することになりました。今後も、我々の活動が、みんなでもっとハッピーになることに進んでいったら嬉しいと思います。

ゲスト報告2 テーマ「私たちが目指す農福連携」

一般社団法人 空 代表

熊田芳江氏

農業には深刻な問題がいくつもあります。農業従事者の減少、農業者の高齢化、農地の減少。昔は、農村というのは美しい風景で、皆がその畑や田畑に出て働いていて、地域全体で支え合って協力していました。災害や何かがあっても、みんなで助け合っていました。

 

農福連携といわれていますが、さまざまな形態の農福連携がすでにあります。私たちのように自ら農業を行う福祉事業所。施設から農家さんにお手伝いに行く施設外就労。さらに、企業が経営する農業。そして、農家さん自身が障がい者を雇用する形態も増えています。

 

農福連携にはメリットはたくさんあります。農家さんにとっては労働力。社会貢献にも繋がります。環境の改善によって作業効率が向上し収益が向上。人の交流が賑やかになって、地域が活性化されてよみがえってきたと言われて喜ばれることもあります。

 

一方、福祉側にとっても、作業の切り分けとか、能力に応じて作業をつくることができます。自然とのふれあいによって、精神的にも安定して、体力がついて健康的にもなります。利用者さんも自信を持って、モチベーションも上がって、一般就労に至る人も多いようです。さらに地域との交流によって社会参加がしやすくなる。例えば、直売所があれば地域の人たちがやってきて、障がい者の人とふれあう機会が増え、偏見とか差別が消えてなくなるわけです。

とはいえ福祉事業所として農福連携に関わる上で課題もあります。専門的な知識と技術、農地の確保、収入に結びつくためには、機械化も必要です。6次化にも厳しい工程管理、食品表示などの知識も持っていないといけません。

 

農福連携で大事なことは、農業も福祉も経営力も、どれもバランス良く必要だと言う事です。令和29月から令和35月までヤマト福祉財団の農福連携実践塾の第2期が終わりましたが、この塾ではきちんと利用者に工賃を払い、そのためにどうすべきかを具体的に学ぶことを目的としています。農業経営、福祉と農業のバランスの取れた人材の育成です。入塾前の平均工賃26,000円がコロナ禍を越え2年後に約33,000にアップした実績は、私も感動しています。これまで多くの福祉施設が「熊田塾」「農福連携実践塾」を卒業し、全国で農福連携の実践者として活躍しています。農福連携実践塾も人材が大きく育って、アワードの受賞、あちこちの講演会に引っ張りだこになっているような、そんな会になりました。

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