2023年09月20日 (水)

現地会場:八女市民会館 おりなす八女 (ホスト 社会福祉法人ハイジ福祉会)

主催者あいさつ

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

今日は福岡県の八女市からです。この地域産業の一躍を担って地域貢献をされているハイジ福祉会さんとともにお届けしたいと思います。

 

ヤマト福祉財団はクロネコヤマト宅急便でおなじみの宅急便を生み出した小倉昌男が、障がいのある方、ない方、みんな一緒に暮らせる社会をつくりたいという希望のもと、1993年に設立しました。お陰さまで、設立30年を迎えるということになります。これまでも障がいのある方が自立して生活をされる、その自立支援を様々な形でご支援させていただいてまいりましたけれども、これからも福祉財団は、みなさまとともに障がい者の自立支援に向けて進んでまいりたいと思いますので、よろしくお願いを申し上げたいと思います。

 

ホスト講演 テーマ「利用者も職員も幸せになる取り組み・ハイジ福祉会の農福連携」

社会福祉法人ハイジ福祉会

理事長 山口由紀子氏/施設長 山口隆充氏

山口理事長:精神障がい者が安心して働ける居場所を

 

昭和59年、家族会が運営母体となり八女共同作業所が開所されました。精神障がいの兄がいたことが、私が福祉の世界に入るきっかけです。平成13年、私はその八女共同作業所へ所長兼職員として入職します。当初、基盤の軟弱さ、工賃の低さに、これはどうにかしなくてはと思い、営業に回りました。そして多様な仕事から適したものを選び、利用者さんがこの事業所を自分の居場所」と安心して通えるようにすることでした。平成19年、社会福祉法人ハイジ福祉会を設立。平成26年、継続支援A型事業所、フラワーパッケージセンターを開設しました。

 

さらに全国の仲間と精神障がい者の交通運賃割引の署名運動を開始し、2,017年に、鉄道や航空会社などの割引も実現しました。

 

山口施設長:地元農家さん、利用者さんもWinWin

 

八女市はガーベラの一大産地ですが、農家は深夜に及ぶ調整・出荷作業に苦労していました。そこでJAと交渉し、2014年にフラワーパッケージセンター(FPC)を開設。仕事のない福祉と高齢化や人手不足に悩む農業の足りない部分を合わせて、両方の未来に繋がればという思いからです。他にも、地域でモデルケースとなるA型事業所が必要だと考えました。

FPCでは、農家より持ち込まれたガーベラや百合など花卉の調整・出荷作業を利用者さんが担当。農家さんは、栽培に集中し、さらに生産を拡大することができます。開設当初のガーベラの取扱いが120万本でしたが、2022年度では334万本に増加しています。

 

FPCの仕事は委託業務となりますが、繁忙期により運営が安定しないこと、立場的に弱いということもあり、自主農業を手がけJAの組合員にもなりました。現在、ファーム部でガーベラが500坪、ミディトマト300坪でハウス栽培を行っています。ガーベラは1年中花が収穫できるので利用者さんは継続的に仕事ができます。2018年から取り組んでいますがガーベラは18万本だった出荷本数が2022年度で63万本になりました。

 

農業参入、A型を始めたことで心がけているのは、福祉的就労からビジネスと考え方を切り替えました。福祉収入がなくても経営ができるように、スタッフの人件費もFPCとファーム部の売上げで出せるような収益を取れるように考えています。A型で利用者さんが責任を持って仕事をしていただくと、職員の配置も少なくて仕事が回って行きます。

利用者さんの工賃をアップするだけでなく、一緒に職員の給料がアップしやりがいにもつながるメリットがあります。

講演 ディーセントワークと現場をどう結びつけるか

(NPO)日本障害者協議会 代表

藤井克徳氏

働くこと、働く意味。この視点をどんなふうにディーセントワーク、現場と結びつけるか。ディーセントワークとは、いい働き方、人間らしい働き方。これを世界中で大事にしようと言われています。

 

労働は4つの大きな意味を持ちます。1つは収入を得ること。給料を得て、今月も頑張っていこう、と。少し難しい言葉では生活の糧です。2つ目、生きがい。働きがい。やりがい。これも難しい言葉で言うと、自己の実現です。3つ目、社会とつながること。仲間とつながっていたい。社会連帯といいます。4つ目は、健康の維持。通勤にしても、働くこと自体、筋トレみたいなものです。障がいがない場合には、大体この4つが均等の割合で成り立つと言われます。でも、障がいがある場合には、少しこのどこかにウェイトを置く場合もあるかもしれません。

 

今度は働くという行為を別の角度から見てみます。労働は3つの要素に分類できます。

1つは、労働能力。足腰の筋肉、目、耳を使う。もちろん考えることも能力です。

2つ目、労働素材。これは変わる対象、変化するものです。農業の場合なら、土地、苗、肥料あたりです。でも、土の成分とか、水とか光、これは変わらないんです。

3つ目は労働手段。労働環境と言ってもいいとすると、ビニールハウスも立派な労働手段です。

 

この中で何が大きく変わったかといったら、労働手段が変わっていきました。ヤマト運輸でいうと、トラックがなかったら話になりません。農業も初めは手でほじっていたけど、発展して牛や馬に引かせたり、今ではコンバイン1台で田植えも、あるいは稲刈りも、精米もと発展していった。

障がいのある方の労働というのは考える力に難があったり、目が見えなかったり、耳が聞こえなかったりと、の労働能力に難があるわけです。そうすると、障がいのある方の労働は、もっともっと労働手段を、労働環境を変えることが本当の労働保障と言っていいと思うんです。

 

一番大事なことは、"障がいがゆえに本人の責任" ではなくて、これをどれくらい経営者が、リーダーが補うための工夫をしているか。また障がい当事者も、「もっとこうしたらどうですか」、「こうしてほしい」と意見として出す。こうして、この部分の発展がとても大事になると思います。視聴者の皆さんもこういう観点を少し持ち合わせると、これからの事業展開も変わってくるんじゃないかなと思います。

ゲスト報告1 テーマ「誰もが対等に地域で働き、地域で生きる活動を目指して」

社会福祉法人くまもと障害者労働センター

野尻健司氏

我々の正式名称はくまもと障害者労働センターですが、長すぎるので通称のおれんじ村で説明します。約40年続く小さな法人で、理想と思いだけでやっているようなところです。

 

僕は福祉の専門学校を卒業して、身体障がい者の療護施設で働きました。そこに、小さい頃から障がいが重く、施設で暮らし続けている人がいて、「死ぬまでに一度、地域に出て暮らしたい」と言ったんです。そのとき初めて、福祉って何だろうとか、本当に本人が望まないのに施設入所させられる社会、それを当たり前と思ってきた自分自身の差別意識に気づきました。

そこからもう一度、福祉をしっかり勉強してみようと、仕事を続けながら、夜間、大学に通いました。その大学の先生が、今のおれんじ村の理事長ということもあって、卒業後、ここで働くことになりました。

 

おれんじ村の理念は3つです。障害のあるなしにかかわらず、共に働き、共に生きること。障がい者の労働権を確立すること。そして、障がい者差別をはじめ、あらゆる差別と戦うことです。

 

共に働き、共に生きること。職員と利用者という関係、上下の関係ではなく、働く仲間として対等な関係を築いていこうということです。うちの大きな特徴は、障がい当事者が自ら集まって作り上げてきたこと。今もその人たちがいて、運営もみんなでやっています。障がいだけにこだわらず、さまざまな働き難さを抱えた高齢者、シングルマザー、いろんな人を含めて、一緒に働くことを目指します。

 

障がい者の労働権の確立とは、補助金、給付金頼みではなく、売り上げをしっかり上げて、事業所として経済的自立を目指します。働いて得た収入と、年金を合わせて、自立生活ができるよう、しっかりと所得保障をしていきたい。自ら働いて得た収入で思い描くライフステージが語れたり、恋愛だったり、結婚、出産、子育てなど、いろんな夢が描けて実現できたらと思っています。

 

障がい者差別というのは、まだ今も存在しているのは事実です。しっかりと連帯して、差別と戦っていきたいというふうに思っています。地域で働き生き生きと暮らす障がい当事者を地域に示していくことが、差別をなくすためにおれんじ村が今できることだと思い、地道に活動しているところです。

 

ゲスト報告2 テーマ「小さい施設でもステップアップできること」

一般社団法人あんずの森 代表

泉 栄氏

あんずの森は小さな施設で、最初は何の基盤もなしのスタートだったこともあり、利用者や仕事の獲得に大変苦労しました。当初より精神障がいの利用者の方がほとんどで、なかなか出勤できない。やっと来ても出勤が続かない。支援方針も確立できないまま利用者の方の機嫌を取りながら作業をしてもらう状態が続き、何かが違うと日々感じていました。

 

悩み続けていたときに、夢へのかけ橋実践塾の新堂塾に出会い、すぐに入塾しました。成功している塾長や仲間の真似から始めました。しかし、愛媛県松山市の田舎にある小さな施設では、環境も違い同じ仕事はありません。

利用者の大半が精神障がいの方で、利用日数が少なく時間も短時間であること。全体の人数も少なく、小規模であること。これらの違いが分かったからこそ、逆にそれを生かそうと思いました。少ない人数の今こそ、変えるチャンスであり、小規模だからこそ決定事項も迅速に決まると考え方を変えたのです。

 

しかし、課題が見え始めてきた矢先、コロナで世の中が激変。一気に仕事がなくなりました。毎日電話営業をして、何度も何度も断られる中、広島に本部がある企業と出会い、施設外就労に結びつきました。また、新堂塾のミーティングで有限会社ドアーズの方と知り合い、ペットフードのリパック作業をいただきました。この2つの出会いで、あんずの森はスムーズなステップアップの仕組みをつくることができました。

 

仕事や環境が人を育てるといいます。B型ではグループでの仕事において、「活動」と「働く」の違いを感じ、集中力を養う。A型では仕事の責任感を持って取り組む中で、スムーズな就労への道筋をつくっています。B型からA型へ、A型から一般就労へ。B型から一般就労に進む方もいらっしゃいます。目の前でステップアップしていく仲間を見ることで、周りの利用者さんも刺激を受け、自分がどうすれば進めるか、考えるきっかけにもなっています。

 

新堂塾に入塾した2019年の工賃は7,120円でしたが、3年半後の卒業時には、目標にしていた2万円を越えることができました。コロナ禍を経験し、企業の自立としてオリジナル商品の開発、そして工賃3万円を目指し、利用者が仕事を持って自分の人生を生きるための寄り添う支援をしていきたいと思います。

 

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