2019年07月12日 (金)

エルガーラホール

山内 雅喜

主催者あいさつ

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

山内 雅喜

私は6月に本財団の理事長に就任したばかりですので、今日は、みなさんと一緒にいろいろなことを学ぼうと、ここにやって来ました。

人は、自立して生活することで幸せを感じられます。しかし、自分の力で自分の生活を営んでいくためには、それを支える収入が必要になります。いま障がいのある方が一番求めているのは、やり甲斐を感じる仕事であり、より高い給料なのです。それを実現しようと、一歩でも前に進む意欲を持つ福祉施設を、私たちは応援しています。

障がいのある方たちの経済的な自立を、どのような方法で支援し実現していくのか。みなさんの関心はそこにあると思います。このあと、他人が不可能とあきらめていたようなことに挑み、実現された先輩方が講師として登壇されます。講演者は寝る間も惜しみ、挑まれてきたような凄い方ばかりで、そこにはプロとして妥協しない厳しさが見えてきます。今日聞いていきなり先輩たちのようになるのは難しいですが、お話の中から、自分たちもこれならと思えるヒントを一つでも持ち帰り、明日からの新たな挑戦に活かしていただきたいと願っています。人がやらないことをやることにこそ、喜びと価値があります。ただ考えていても答えは出てきません。とにかくやってみること。そこから価値ある気づきも生まれてくるはずです。

藤井克徳氏

講演 障がいのある人をめぐる関連動向とディーセントワーク

(NPO)日本障害者協議会代表/きょうされん専務理事

藤井克徳氏

3年前の津久井やまゆり園の悲劇を振り返ると、その背景には、ある歪んだ思想が見えてきます。ドイツでは、障がい者の強制断種やT4作戦と呼ばれる恐ろしい惨殺行為まで行われていましたが、日本でも「優生保護法」という名で、障がい者の不妊手術を1948年から約48年間も続けていました。近年になり、やっと優生保護法の被害者が裁判を起こせるようになり、国会も重い腰を上げたところですが、その一方で、中央省庁諸機関での長年にわたる障がい者雇用の水増しなどの新たな問題が明るみになりました。こうした根深く残る差別・偏見を解決するには、実際に障がい者が生き生きと働き、暮らしている姿を世間に見てもらうしかないと、私は考えます。

現在、日本の障がいのある方の人数は約963万人と言われています。労働者人口が15~65歳とすれば、約半分の500万人近くが働きたいと願っているわけです。しかし実際には、企業に就職できている人、就労継続支援A型・B型事業所で働くことができている人を合わせても、約82万1000人しかいません。

だれにでも当然の権利として、ディーセントワークが与えられています。国連は「障がい者を閉め出す社会は、弱くもろい」「障がい者は特別な人間ではありません。特別なニーズを持つ普通の市民です」と発言しています。障がいのある方の仕事や所得の保証などについて、私たちは他者との平等性を基礎として考え、それを実現できる社会を築いていかなければならないのです。

武田 元氏

講演 障がいのある人が最高品質を極める ~問われているのは~

(社福)はらから福祉会 理事長
第3回ヤマト福祉財団賞受賞

武田 元氏

開所以来37年間、(社福)はらから福祉会は、障がいの重い軽いに関係なく、だれもが故郷・宮城県で地に足を付けて生活できるだけの給料を支給することを目標にしています。それを実現できるのは、商品力と支援力です。

私たちは、はらから豆腐、牛タンなど一般企業の商品と肩を並べられるだけの品質を誇る商品を市場に提供しています。これは一朝一夕に実現できたものではありません。それぞれの食品を作るプロに職員が技を学び、そのノウハウを根気よく利用者さんに指導していきました。いくら売れる商品でも職員が作っていてはダメ。利用者さんの仕事となってこそ意味をなします。障がいの重い軽いは、支援の差だけで、準備さえ整えればなんとかなるものです。ただし、なにもかも手取り足取りで指導するだけが支援ではありません。たとえば、障がいが重い人は、つい個別支援をしたくなりますが、集団の中でみんなと一緒に働くことで、自ら周りのペースに合わせて働けるようにもなれるのです。

目標の平均給料7万円までは、あと一歩届いていません。食品衛生法に対応するHACCPを取得するなど努力を続けていますが、今後も商品力や生産性を高めていくために設備投資を続ける必要もあります。本当にそれが正解なのかと、私たちも迷うことはありますが、そんなときこそ、やってみる。私たちは、利用者さんのためにつねに前へと進み続けるだけです。

新堂 薫氏

講演 「働くこと・暮らすこと」を支える力を高めるために

(社福)武蔵野千川福祉会 常務理事・チャレンジャー施設長
第9回ヤマト福祉財団小倉昌男賞受賞

新堂 薫氏

私たちは、東京都武蔵野市でDMの封入封かん作業を柱に、その付帯業務などを複数の事業所で展開しています。その中のひとつ、チャレンジャーは、平成29年度の平均月額給料が約98,000円で、10万円を超える方は何人もいます。

その給料を支払うだけの仕事量を受注するには、企業からの揺るがない信頼が必要です。だれもがわかりやすく動ける職場環境へと改善し、生産性を上げるための機械化を行い、プライバシーマークも取得しました。しかし、最も大切なのは、利用者さんの働く力を高めること。利用者さんが、自ら考え動く『働く態度』を育んでいくことです。

そのために働く力に応じて給料が上がる仕組みをつくり、利用者さんの意欲を高めました。また、これまで職員が行っていた仕事も積極的に利用者さんに任せるようにしています。やってできないことはない、いずれはできるようになると、利用者さんの力を信じて、焦らずにやっていくこと。その姿勢は、今後も変わりません。給料が上がるとともに、利用者さんの働く態度も変化します。10万円を超えると、自分だけではなく周りのサポートも自然にできるようになります。職員の意識も同様に高まり、ビジネス感覚を持てるようになり、お客様の要望にどう応えていくかを考え、工夫するようになりました。利用者さんと職員、その頼もしく成長する姿をみなさんにも見てほしいと思います。

楠元洋子氏

講演 「お弁当・高齢者向け配食サービスに夢を託して」

(社福)キャンバスの会 理事長
第13回ヤマト福祉財団小倉昌男賞受賞

楠元洋子氏

(社福)キャンバスの会は、宮崎県でリネンサービスや地域特産品などの販売なども行っていますが、本日は弁当と高齢者食の製造・配食サービスについてお話しします。

弁当事業は、いかにリピーターを増やすかが重要です。そのため訪れる客層を把握し、より喜ばれる弁当、メニューづくりを目指します。私たちは、毎日、弁当を写真で残し、日々の商品改善を繰り返しています。また、食材の仕入れ交渉、原価計算、棚卸し、日々の売上管理など、ムダやムラをなくすための努力も怠りません。忘れてはならないのは、利用者さん一人ひとりの働く力もしっかりと把握すること。各人の体力、能力、意欲などを知るからこそ、適材適所で働いてもらえ、仕事に応じたより高い給料を支払うこともできるのです。

弁当事業は、大手チェーンの弁当屋さんやコンビニなどのライバルと競合していかなければなりません。そこで着目してほしいのが、高齢者食です。福祉施設は、利用者さんの刻み食、とろみ食などを行っていますから、他店にはない高齢者食に必要なノウハウを持っています。配食もバラバラの個人宅ではなく施設などへ1ヵ所にまとめて配達するので効率も良く、労力や配車台数も軽減できます。必要なのは、利用者さんの給料増額のためになんとしてもやり遂げるという強い覚悟。私も最初は普通の主婦でしたが、いろいろな方と出会い連携し、可能性が広がりました。みなさんも挑戦あるのみです。

当事者の声 1

(社福)つくしの里福祉会 第2つくしの里 

Aさん

私は、11年間もずっと在宅生活を送っていました。そんな私が、いまは通所し仕事もしています。仕事をすることで、私は私の存在価値を知ることができ、一人暮らしを始める決意もできました。作業所は、私の大切な居場所なだけではなく、生きていく自信を与えてくれるところです。これからはもっと高い給料を、さらに一般就労もできる力をここで身に付けたいと考えています。

中西昌夫さん

当事者の声 2

(社福)さざなみ福祉会 さざなみ Aloha

中西昌夫さん

せっかく一般就労できたのに、自分自身が障がいを受け入れられず、自暴自棄になり失敗した過去があります。でもいまは、家族の支えと Aloha に出会えたことで、ハウスクリーニングという得意な仕事を落ち着いて行え、もっと趣味も増やしたいと考える余裕も生まれてきました。自宅でも「こんな風に清掃したら良いのでは」と研究するようになったら、私も一人前のプロですよね。

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