2019年07月26日 (金)

東京会場 全社協 灘尾ホール

中崎 ひとみ氏

講演「今日も1日がんばった」真の共生の実現を目指して

(社福)共生シンフォニー 常務理事 
第10回ヤマト福祉財団小倉昌男賞受賞

中崎 ひとみ氏

共生シンフォニーは「重度の障がいのある方が、親元から離れても働くことで経済的にも自立した生活を送れるように」と、1986年に滋賀県の琵琶湖のほとり、大津市で開所しました。開所時より利用者さんにより良い仕事を提供できるように工夫を続け、現在、クッキーの製造販売や弁当事業などの七つの事業所を運営しています。

スタート時は商売の駆け引きもわからず、いろいろな事業に挑戦しては失敗し、厳しい運営状況が続いていました。周りの福祉施設に、障がい者を働かせるなんてと批判され、地域の方からは、早く出ていってほしいと言われたこともありました。それでも「私たちは間違っていない、うちは働く事業所なのだ」という信念を貫き、いまがあります。事業が軌道に乗ったのは、クッキーの仕入れ販売を自ら製造するように変えたときからです。さらにOEM受託で売上を大きく伸ばし、多い時には年間約1億9000万円に到達しました。

ところがこのOEM受託が次の受難のもとに。メーカーの都合に振り回されて深刻な経営難に陥りました。そのとき「だれのために、なんのために働いているのか」を改めて考えました。現在は、オリジナルのクッキーを事業の柱にし、経営を建て直しています。真の共生の実現には、重度の障がい者でも自らの力を活かして働き、給料を得ることができる土台があってこそ成り立ちます。そのためにも、利用者さんがより自分に合う仕事を選択できるように、クッキー製造以外の仕事を広げていき、来年には10事業所まで増やす計画です。

柴田智宏氏

講演「福祉のしばりから脱却」共に生きるために選んだ途

(有)ドアーズ 代表取締役/(社福)慶光会 理事長

柴田智宏氏

(有)ドアーズは、鳥取県でペットフードビジネスを展開しています。以前私は、福祉施設で働き、利用者さんの給料増額にそれなりの成果も上げました。ところがある日「施設で10万円もらうより9万円で良いから企業で働きたい」と利用者さんに言われたのです。そのとき「お金だけではない、働き方を選べることも必要なのだ」と気づき、脱福祉の道を選び、起業しました。

当社はペットフードのOEMビジネスで年間約8億円の売上があります。ドアーズの名には、人の可能性を開く複数のドアという意味を込めています。60名いる従業員のうち19名が障がいのある方で、他はシングルマザーや高齢者などの就職困難者です。また近隣の福祉施設とも協働してより多くの障がいのある方に仕事を提供しています。いろいろな個性・立場の人が、互いに理解し力を合わせ、それぞれに合った多様な働き方ができる会社が私の理想です。

いま私は、これまでに構築してきたビジネスノウハウなどを、より多くの施設と共有できる「地域働くセンター」も展開しています。また、このような講演の場で参加者から相談を受けることもあり、利用者さんの自立をサポートできる新事業の立ち上げに協力させていただいています。その両方で私がアドバイスしているのは、給料増額には利益をどう追求するかのスピーディーな経営判断が必要だということです。施設運営と企業経営の二つの視点から、いまの状況をしっかりと把握し、次の一歩を踏み出してほしいと願っています。

松浦一樹氏

講演「家族の温かみを感じるために」元刑事のつくった働く場

(NPO)ENDEAVOR EVOLUTION 理事長

松浦一樹氏

京都から来た元刑事の松浦です。私が福祉の世界に飛び込む決断をしたきっかけは、ある福祉施設で楽しそうに働く障がいのある方たちの姿を見たときでした。「罪を犯した少年たちも、ここで利用者さんたちと一緒に働くことができれば、社会復帰していくことができるのでは」そう考えたのです。

最初はたくさん失敗をしましたし、なかなか理想を実現できない現実にもぶつかりました。そこでわかったのは、支援はもちろん大切だが、障がい者の自立を支えるには確かな事業基盤が必要ということでした。そこでご協力いただける企業を募り、事業所を立ち上げました。いま私は、障がい者が企業で働くための職能や社会的能力を段階的に身に付けるステップアップシステムを考え、共感いただいた五つの会社と一緒に仕事をしています。就職先と合わなければ、ここに戻って働けるようにもしています。やれることやれないこと、いろいろな経験をして「これが好きだ!」という仕事を見つけてほしいのです。

仕事だけでなく、きちんと生活できる環境も整えたいと、私の住むアパートでグループホームも立ち上げました。朝は、私がおはようと声をかけ、私の子どもが帰ってくるとみんながお帰りと声をかけてくれます。利用者さんは、私の家族と共同生活をしているみたいな感じです。私が目指すのは、障がいの重い軽い、年齢にかかわりなく、みんなが力を合わせ共生できる社会。努力した者が正しく評価される平等な職場を、私たちの手で築いていきましょう。

芝田 実さん

当事者の声 1

(社福)ネット 仲間の家

芝田 実さん

私は、以前ダンプトラックの運転手をしていましたが、仕事を失ってからアルコール依存症になりました。そんな私が断酒できたのは、安心して通える場所、働く場所があるからです。いまは車のアクセルの代わりに、ミシンのペダルを踏んで、小物入れなどを作っています。働くということは、人生の質を上げる大切なことなのだと、毎日その喜びを噛み締めています。

遠藤智大さん

当事者の声 2

(社福)武蔵野千川福祉会 チャレンジャー

遠藤智大さん

チャレンジャーは、他の事業所より働く力を求められますが、お給料もたくさんもらえます。ここで働きたいと、どんな仕事でも心静かに一生懸命取り組むように心がけ、やっと夢が叶いました。いまは時給650円、月給は8万5000円になり、親元を離れて暮らし始めることができています。これからも、もっと仕事を覚えて給料を上げ、自分の力で暮らしていきます。

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