2018年07月13日 (金)

エルガーラホール

瀬戸 薫

主催者あいさつ

(公財)ヤマト福祉財団 理事長

瀬戸 薫

これまで私たちは、障がいのある方の〈いまの暮らし〉をどう変えていけるかについて話し合ってきました。でもこれからは、さらにその先の〈未来の生活、仕事のあり方〉を築き、支えていくことが必要になってきます。

今回のパワーアップフォーラムのメインテーマは、「経済的自立力を備えた新しい福祉を目指して」です。障がいのある方が、生きがいを持って働くことができる仕事と職場、そして高い給料の実現に向けて、私たちになにができるかを話し合っていきたいと思います。さらに福岡、東京、札幌、大阪の4会場ごとに、いま福祉施設が抱えるさまざまな問題点をサブテーマに掲げ、それについて解説いただける講演者をお招きしています。ご来場されたみなさまには、利用者さんのこれからを講演者と一緒に考えていただき、それぞれの得たヒントをご自身の職場に持ち帰り、実現に向けてぜひがんばっていただきたいと思います。

藤井克徳氏

講演 障がいのある人のディーセントワーク

講師:(NPO)日本障害者協議会代表/きょうされん専務理事

藤井克徳氏

現在、日本の障がい者の数は、身体障がい者が436万人、知的障がい者が108万2000人、精神障がい者が392万4000人で、合計936万6000人とされています。さらに難病、発達障がい、色弱などを加えると、日本の人口の11%以上の人が、障がい者となります。これはもうマイノリティの問題とは言えません。これからは、私たち一人ひとりが、障がいは他人事ではなく、自分や家族に関わることと考え、人生設計を行う必要があるのではないでしょうか。

日本では、企業による障がいのある方の雇用率を2020年度に2.3%へ引き上げようとしていますが、現在でも守っていない企業が約5割もいます。給料で見ると、一般国民の平均月額給料約25万9000円に対し、身体障がい者約22万3000円、知的障がい者約10万8000円、精神障がい者約15万9000円とずいぶん差があります。福祉施設だと就労継続支援A型事業所が6万7795円、B型事業所は1万5033円です。来年10月から消費税が上がりますが、たった2%といっても、所得が伸びない障がい者にとっては相当な暮らしのレベル・ダウンとして影響することでしょう。

1981年に国連は、「障がい者を締め出す社会は弱く脆い」「障がい者は特別な人間ではありません。特別なニーズを持つ普通の市民です」と言い切りました。この言葉を改めて見つめ直し、これからは、障がいのある人を前提にして社会の設定を組む、すべての障がいのある方を受け入れることができる環境、社会の実現を急務としてほしいと願っています。

中崎ひとみ氏

講演 「今日も一日がんばった」真の共生の実現を目指して

講師:(社福)共生シンフォニー 常務理事 がんばカンパニー

中崎ひとみ氏

滋賀県にある(社福)共生シンフォニーでは、現在、クッキーの製造販売をはじめ、さまざまな形で利用者さんに働く場、力を発揮できる場を提供しています。しかし、ここに至るまでいろいろな苦労がありました。

「自分の力で働いて故郷で自立したいが、障がいがあると会社は雇ってくれない」。そんな子どもたちを支援するため、1986年に「商いでノーマライゼーション」をキャッチフレーズに、小さな事業所からスタートしました。最初の商売は、お茶やコーヒー、お菓子の仕入れ販売です。売上は1000万円〜3600万円くらいになりましたが、自立した生活を営めるまでの給料には届きません。そこでクッキーの製造販売を開始。売上は伸び、まだ障害者自立支援法が施行される前に、全利用者さんと雇用契約も結びました。ところがバブルがはじけ、商売はどん底に。財布の中は小銭だけ。利用者さんに気遣ってもらうような日もありました。それでも一から経営を学び、あきらめず営業を続けてきました。その成果が実り、いまでは、年間1億3000万円以上の売上になっています。

共生シンフォニーが生まれてから30年以上、現在は、障がい者以外にシングルマザーなどが働く職場としても広がっています。共に生きること、共に働くこと、共に育ちあうこと。それが私たちの道標です。いつか共生シンフォニーが必要でなくなり、誰もが住みよい社会を実現したいと頑張っていきます。

柴田智宏氏

講演 「福祉のしばりから脱却」共に生きるために選んだ途

講師:(有)ドアーズ 代表取締役、(社福)慶光会 理事長

柴田智宏氏

鳥取県でペットフードを製造する(有)ドアーズの経営と、社会福祉法人の理事長を務めています。かつて私も福祉施設の一職員として、このフォーラムの前身・パワーアップセミナーに参加していました。

セミナーで学んだのは、利用者さんの給料増額には「福祉施設のしばりが大変でもそれを言い訳にしない、一般企業と品質・生産性を対等に渡り合える商品を製造すること」などです。そこで中古の機械を購入し自らメンテナンスして製麺所の機械化などを進め、一般企業と市場競争し、売上は約1億円にまで伸ばせました。そんなある日「福祉施設で10万円もらうより、会社に勤めて9万円をもらいたい」という利用者の声を耳にします。「1円でも多く給料をもらえることだけが幸せになる答えではない。利用者さんに仕事の選択肢を広げていくには、自分がやるしかない」と福祉施設を退職し起業を決意しました。

(有)ドアーズでは、障がいのある方だけでなく、シングルマザーや高齢者などの就業困難者も働いています。商売は、メーカーから注文を受けて製造するOEMに徹していますので、売れ残るリスクや販売先開拓の心配がなく、安定して売上を伸ばせています。現在の年商は約5億円、私が理事長を務める福祉施設や地元の施設にも仕事をお願いできるようにもなりました。これからも企業経営者として、福祉職員として、つねに攻め続けていく決意です。

松浦一樹氏

講演 「家族の温かみを感じるために」元刑事のつくった働く場

講師:(NPO)ENDEAVOR EVOLUTION 理事長

松浦一樹氏

私は大阪でNPO法人の理事長を務めていますが、もとは少年課の刑事です。ある事件で作業所を訪ねたときに出会った笑顔で働く利用者さんの姿に感激し、「こういった場所でなら、社会や学校でつまずいてしまった人が、もう一度やり直せるはず」と福祉への転身を決意しました。

福祉施設の職員となり痛感したのは「もっと給料を上げなければ平等公平は実現できない」ということでした。それには支援だけではなく、経営もしっかり学ぶことが必要です。NPO法人として独立後は、事業を成功させるために企業とコラボできる体制づくりを進めました。しかし「福祉施設は納期を守れないからダメ」と相手にしてくれない企業も。そこで利用者さんの働く意識や技能を高めるステップアップの仕組みを考案しました。いまでは、うちの利用者さんがいなかったら仕事が成立しないとまで言ってもらえるお客様もいます。

現在は、給料も約14万円まで支払えるようになりました。ステップアップすれば、自分のやりたい仕事を選べ、一般企業に就労もできます。また、自立するためのグループホームも運営し、私たち家族も同じマンションに住み、家族ぐるみで利用者さんの生活を支援しています。私は、この仕事に誇りを持っています。中途半端な気持ちでは、利用者さんの願いを叶えることはできません。最後までやり通す強い決意で、みなさんにも臨んでほしいと思います。

上田 美由紀さん

当事者の声 1

(社福)キリスト者奉仕会 恵愛ワークセンター

上田 美由紀さん

小さいころケーキ屋さんで働きたいと思っていた夢が、いま、パン屋さんという形で実現できています。病院に納品するパンの用意から、酵母パンの粉量り、メロンパンの皮づくり、さらに接客まで、いろいろな仕事を担当しています。いまのお給料は、1ヵ月約6万円。洋服を買ったり、友だちと遊んだり、お母さんに美味しいものを買ってあげたりもできています。

小倉誠一さん

当事者の声 2

(社福)福岡ひかり福祉会 風ひかり作業所

小倉誠一さん

9年前、突然倒れてしまい身体の半分が麻痺。いままで当たり前だった仕事も生活も失い、真っ暗になった私の気持ちを変えてくれたのが、施設の仲間です。お客様からの信頼に応えたいと真剣に取り組む姿と笑顔に、私も夢や希望を取り戻すことができました。いまは、仕事に、趣味の競歩に意欲的に取り組み、自分らしく生きていくことができています。

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