2020年09月25日 (金)

東京会場編 オンライン開催

障がいのある人が最高品質を極める 〜目指すは暮らせる賃金〜

(社福)はらから福祉会 理事長

武田 元氏

はらから福祉会では、七つの事業所で約260名の利用者さんが働いています。開所以来目指しているのは「障がいが重い人もみんなが故郷・宮城県で生活できる給料7万円の支給」です。そのために、一般企業と肩を並べて競える「最高品質の商品」を利用者さんが生産できるように、知恵と工夫を絞っています。その実現へのキーワードが「チーム化」と「機械化」です。

私たちは、豆腐や牛タンなどを製造しています。牛タンは、ふるさと納税返礼品の人気ランキングの上位に選ばれ、昨年の売上12000万円を9月段階で上回る注文をいただき、今年は倍以上の見込みとなっています。しかし、最初から素人の私たちが簡単に作れたわけではありません。まずは、外部の専門家の厳しい指導を受け、市場で競えるだけの商品づくりの知識と技術を職員が修得しました。次に、その作業工程を難易度で細かく分け、障がいの重い方も一緒に働ける「チーム化」を進めたのです。その上で、簡単な仕事も難しい仕事も、どちらも商品づくりには必要であることを全員に理解してもらい、どの作業を担当している人にも同じ給料を支払えるようにしていきました。

作業に習熟すると利用者さんの仕事への意欲は高まり、職員が担当している難しい作業に挑戦したいと希望する者も出てきます。そこで次に取りかかったのが「機械化」です。これにより生産効率向上だけではなく、刃物を使う作業を安全な機械操作にし、利用者さんが担当できるようにしています。機械化にはお金がかかりますが、治具など工夫次第で改善はできるはずです。利用者さんの能力を育むとともに働きやすい環境を整えること。そして「障がいの重い方こそ、円の中心に置いて考える」姿勢を忘れないでください。一人も置いていくことなく「より高い給料を全員に支払う」それがはらから福祉会の目標です。

お弁当・高齢者向け配食サービスに夢を託して

(社福)キャンバスの会 理事長

楠元洋子氏

宮崎県都城市で弁当・高齢者向け配食サービスを行っているキャンバスの会の楠元です。私は、夢へのかけ橋実践塾の塾長を務めています。塾生には「どんな事業でも地元を知ることが大切だ」と話しています。みなさんも、まずは食材・観光資源・人材など地元になにがあるかを調べてみましょう。次に施設の周りのお客さまのターゲット層を把握してください。これらを活かしてなにができるかを考えていけば、市場競争に打ち勝つヒントも発見できると思います。

実践していく際には、職員が団結し、PDCAサイクルによる情報の共有と業務改善を進めることが大切です。食品を扱うキャンバスの会では、一般に言う5Sに加えて「洗浄・殺菌を加えた7S」を厳守していますが、単にやりなさいと指示してもなかなか実践できません。利用者さんのだれもが簡単に行えるようにマニュアルを作ったり、写真に撮るなどして「わかりやすく見える化」することが必要です。これは、お弁当づくりや盛り付けも同じであり、塾生たちには必ず徹底させています。

みなさんの中には、コロナ禍で厳しい経営状況に置かれた方もいるでしょう。でもいまの新しい非日常を見つめ直していれば、いろいろなチャンスが秘められていることに気づくはずです。例えば、中食(テイクアウト食)は、大きく需要が伸びています。これはコロナ感染拡大防止のためのステイホームが要因だけでなく、一人暮らしの方や高齢者の増加、女性の社会進出などの背景があって生まれたことがわかります。みなさんの施設と周りの状況を冷静に見つめることで、いままでにないアイデアや新たな可能性も広がっていきます。失敗を恐れずにできることから積極的にトライしてください。利用者さんのために、コロナなんかに負けてはいられませんよ。

実践報告 障がいのある人と働くこと

(社福)亀岡福祉会 第三かめおか作業所 施設長

日下部 育子氏

HK大河ドラマ「麒麟がくる」の舞台の一つ京都府亀岡市に私たちの施設はあります。現在、四つの就労継続支援B型事業所で定員40名が、菓子製造販売事業、製造事業などで働き、昨年は年2回の賞与を含め月額平均級4万円を超えることができました。先に講演された武田塾長から夢へのかけ橋実践塾で学んだことを、それを私なりにどう取り入れ実践しているかなども報告します。

第三かめおか作業所では、仕事の量も種類も年々増加していますが、その中で苦慮しているのが「仕事と支援のバランス」です。利用者さんの中には、仕事ができるからと期待し過ぎてしまうと、プレッシャーで力を発揮できなくなる方もいますし、実際にそんな失敗も経験しました。そんなとき思い出すのが、武田塾長の「仕事の責任はだれが取っているのか?」という問いかけです。品質や生産管理をしっかり行いながら、利用者さんが主役として活躍できる支援をどう進めるか。利用者さんが壁にぶつかったとき、どうケアできるか。私たちは、PDCAサイクルで職員みんなが利用者さんの納得できる方法を考え、共有し、一人ひとりに合った支援、アクションを実践するように心がけています。

さらに大事なのは、仕事に見合った対価となっているか、単に利用者さんや職員の負担になってはいないかという点です。それを改善する鍵が、職員みんなが納得できる明確な数字を計画・目標として立てることだと思います。今年の夏には、時給を上げることもできました。多様な働き方を提供し、利用者さんそれぞれに無理のないステップを踏んで力を付け、仕事の喜びを感じてもらいたいのです。コロナ禍でも私たちの姿勢は変わりません。利用者さん一人ひとりを大切に見つめ、その声に耳を傾けながら、さらに話し合い、自ら答えを選択してもらえる、そんな支援を今後も実践し続けていきます。

実践報告 自分の思ういいはたらくば

(一社)おひさま いいはたらくばトポス 施設長

小林 綾子氏

いいはたらくばトポスは、3年前に茨城県牛久市に開所しました。「障がいのある方が役割を持って楽しく働きながら、経済的に自立できる事業所を作りたい」。そのため平均月額給料約5万円を目指し、弁当事業をはじめました。その理由は、他事業所での成功例が多い、日々改善点を発見できる、利用者さんの仕事がたくさんある、地域の方に喜ばれる弁当を作ればそれだけ売上も伸びるなどです。しかし素人の弁当が、簡単に売れるはずもありません。最初は175個販売できれば良い方でした。そんなとき、夢へのかけ橋実践塾で、弁当・配食サービスのさまざまなノウハウを楠元塾長に学ぶ機会も得ることができました。

私たちが大きく変化できたのは、楠元塾長に現場を視察いただいてからです。ターゲット選定やメニューづくりの考え方。味はもちろん見た目から美味しく感じられる盛り付けを利用者さんが効率的に行える方法。さらに厨房の動線やストックルームの改善点も細かく指摘いただけました。それを実践していくことで、現在は1日約456個の弁当を生産・販売できようになっています。

事業は段々と軌道に乗ってきましたが、大切なのは、利用者さんにとって「いいはたらくば」となっているかです。それには、一人ひとりが得意なことを活かせる役割に就き、自信を持って働ける工夫が必要と考えました。そこではじめたのが「評価表による時給設定」です。利用者さん一人ひとりにカスタマイズした評価表をもとに毎月評価会議を行います。ここでは、できないことではなく、できることを職員みんなで評価し時給に算出。その内容を本人にフィードバックすることで、利用者さんは周りの評価と自身の成長を実感でき、やる気も湧いてくるようになりました。いまはコロナ禍で思うように動けないときもありますが「もっといいはたらくば」とするために頑張り続けます。

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