2020年10月02日 (金)

大阪会場編 オンライン開催

講演 知的障がい者の自立を支えて

(社福)武蔵野千川福祉会 常務理事・ チャレンジャー施設長

新堂 薫氏

私たちは、東京都武蔵野市で七つの事業所を運営し、DMの封入封かん作業を共通の仕事にしています。これにより、約160名の利用者さんは、働く力を伸ばすことでより高い給料をもらえる事業所へとステップアップできる仕組みを作りました。昨年度の平均月額給料は、最初のステップの八幡事業所が36,714円、最も高いチャレンジャーで105,304円です。これにより「努力は給料に反映する」その喜びを実感できるようにしています。

利用者さんの働く力を伸ばすには、「意識を変える」ことが必要です。たとえば、なにを作っているのかもわからなければ、仕事への意欲は湧きません。自分たちの作るものが、社会にどう役立っているのかを理解できる、見える工夫を行ってください。私たちは、朝礼や終礼で仕事を中心とした話を行い、タイムカードも導入し、ここには働きに来ている、そんな意識を高めるようにもしています。これらの実現には「職員の意識変革」が不可欠です。みなさんは、利用者さんを労働者として正しく評価し支援していますか。仕事をするための、働きやすい職場としての環境整備は実現できていますか。私は、夢への実践塾で塾長を務めていますが、塾生たちにはこうした考えを浸透させています。

塾生の中には、コロナ禍で売上が大幅に落ちた者もいます。仕事がないと嘆いている時間があったら「よりわかりやすく、見通しのつく働く環境への改善」を進めてください。大切なのは「いつ・どこで・なにを・どのように・どれくらい作業するのか。終わりはどこまで・次はなにをするのか」が、明確に見えることです。ちょっとした工夫で利用者さんのできることは広がっていきます。そんな支援を考え行うことこそが、福祉施設職員に求められる専門性です。給料が上がれば仕事への意欲や責任感、新しい夢も生まれてきます。利用者さんが成長していく姿を見る喜びを、ぜひみなさんにも味わってほしいと思います。

講演 家族の温かみを感じるために

(NPO)ENDEAVOR EVOLUTION 理事長

松浦一樹氏

今日は、目の前で私の熱い思いをお伝えしたかったのですが、京都からオンラインでの参加となりました。私は、少年課の刑事という変わった経歴を持っています。私の人生を変えたのは、ある事件がきっかけで福祉作業所を訪ね、楽しそうに働く障がいのある方たちの姿を見たからでした。「罪を犯した少年たちも、ここでみんなと一緒に働くことができれば、社会復帰できるのでは」。そう考えたら、いても立ってもいられず、この世界に飛び込んでしまいました。

そんな私も、みなさんと同様に福祉の持ついろいろな壁にぶつかります。それでも理想に向かって進めたのは「やりたいことがあるなら、自分でやるしかない」という強い思いと、それに賛同してくれる家族や福祉関係者、そして私の声に耳を傾けてくれる地元の企業経営者がいらっしゃったからです。私は、施設外就労に特化して一般就労へとステップアップできる仕組みを作りました。利用者さんは、企業の中で働くことで、仕事とはなにか、自分になにができるかを体験的に学んでいきます。先輩の働く姿を見て、自然に仕事のノウハウや社会で必要とされるルールなども身につけていく。そして「得意、不得意は関係なく、みんなが協力し合い、仕事をやり遂げなければならない」という一般就労で最も大切なことも理解できるようになっています。

仕事をして社会で生活をしていると、いろいろな悩みが生まれます。「その悩みを家族のように共有できれば、利用者さんが本当に必要とする支援を行える」と私は考えました。そこで、私の住むアパートにグループホームを作り、利用者さんと一緒に生活をはじめたのです。私の朝は、寝ぼけた利用者さんに「おはよう!」と声をかけることからはじまります(笑)。仕事を提供するだけでは福祉とは呼べません。障がいに関係なく、どんな人も人生につまずいてしまうことがある、そんなときにこそ寄り添える存在であり続けたいと思っています。

実践報告 平均工賃5万円の支給に向けての取り組みと、受注回復の取り組み

社福)ゆたか福祉会 ワークセンターフレンズ 星崎 副所長 サービス管理責任者

稲垣 伸治 氏

私は、夢へのかけ橋実践塾で新堂塾長から、利用者さんの給料増額のための支援のあり方や職場環境の整備などを学んだ卒業生です。でも決して優秀な塾生ではなく、入塾当初の平均月額給料は約15,000円。それでも卒業後も教えを実践し続け、2019年度には念願の5万円を達成できました。つまり「やる気さえあれば、利用者さんの給料増額はだれにでもできる」ということです。

私が実践してきた課題は五つです。「1.だれが見てもわかりやすい作業環境をつくる。2.いろいろな事業に手をつけず、DMの封入封かんを柱に絞り込む。3.作業の工程分解とライン化を行い、利用者さんの仕事を増やし生産性も上げる。4.ムリ・ムダ・ムラをなくした作業へと標準化し、全利用者さんが効率的に高品質な作業をできるようにする。5.そして、それを実践しやすくする治具の開発」です。たとえば、大型モニターに作業のやり方やどこまで達成できているかなどをわかりやすく表示したり、封かん作業などの細かな位置合わせをだれにでも簡単に行える治具も製作しました。これらを職員みんなで考え取り組むことで、私たちの事業所は一歩ずつ変わっていくことができました。

しかし、4月の緊急事態宣言により私たちの仕事も大きなダメージを受けています。イベント告知DMなどの大口の仕事が中止となり、35月の粗利益は対前年比約80%にまで落ち込みました。いまやっと回復し、改めて仕事があるありがたさを痛感しているところです。しかし、決して安堵などしていられません。DMの仕事は、次第にインターネットへと移行していくでしょう。必要なのは「利用者さんの働く力を信じ、次の新しい事業を創出していくこと」。利用者さんの挑戦意欲に応えられる職場環境、信頼できる職員とのチームワークさえあれば、コロナ禍でもピンチをチャンスに変えていける、私はそう信じています。

実践報告 誇りの持てる仕事づくり

(NPO)ふくおか福祉とびうめ会 代表理事

福本 慎吾 氏

今年で11年目を迎えるふくおかとびうめ会は、名前の通り、福岡県の太宰府天満宮の近くにあります。いま私は、夢へのかけ橋実践塾で新堂塾長より、作業分化やライン化などのさまざまなノウハウを学んでいるところです。

現在は、これまで請け負っていた単価の安い仕事を止めて、ペットフード関連事業1本に絞り込んでいます。きっかけは、2年前のパワーアップフォーラムで講演されたペットフード事業を行う柴田さんとの出会いです。2012年にオリジナル商品として製作したペット用アニマルバンダナでペットショップなどとのつながりはありましたが、それをペット用おやつの製造事業にまで広げることができたのは、柴田さんの教えがあったからこそ。それを事業の柱に絞り込むようにと勧めてくれたのが新堂塾長です。製造現場も見ていただき、5Sのあり方、生産効率の向上や利用者さんの仕事の拡大のために作業分化とライン化をどう進めるかなど、具体的なアドバイスもたくさんいただいています。

私たちの商品の特長は、無添加・国産・手作りです。その品質と利用者さんの仕事ぶりを評価いただき、メーカーからペット用おやつのOEM製造の依頼も受けています。ペットフード関連の仕事を始めて良かったと思うのは、利用者さんが自分たちの施設の名前が入った商品がショップの棚に並ぶのを見て、自分の仕事に誇りを感じられるようになったことです。今年からはふるさと納税返礼品としても採用され、月約100万円の売上をプラスできています。給料体制も出来高制から時給制へと変え、平均月額給料は今年が24,338円に、来年は32,000円、再来年には45,000円を見込めるようになりました。これからはペット関連の商品づくりで売上を拡大しながら、利用者さんの育成と評価方法を工夫し、能力に応じた給料増額を目指していきます。

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