2021年02月19日 (金)

福岡会場編 オンライン開催

これからのがんばカンパニー」ソーシャルファームの可能性

(社福)共生シンフォニー 常務理事

中崎 ひとみ氏

賀県大津市、琵琶湖のほとりにある共生シンフォニーには、菓子の製造販売を行う「がんばカンパニー」と、弁当の製造販売を行う「はっぴぃミール」の二つのA型事業所があり、約60人の利用者さんが働いています。お菓子は、約30年前から時代に先駆けてはじめた自然派クッキーです。自然食品にこだわる生協などに扱っていただき、他のNPO団体などとのコラボ商品からプライベートブランドまで幅広く製造販売していますが、現在はコロナ禍と言うこともあり、ネット販売が売上の柱になっています。お弁当は、作り立ての美味しさにこだわり、地元の企業や市役所などに販売。また、一般の給食事業者には難しい刻み食や流動食など、福祉施設の強みを活かして、福祉施設や高齢者施設などへの給食事業も行っています。

こうした事業の売上は、年間約13,0005,000万円です。売上を維持できている理由は、商品・サービスの品質もありますが、地域に根ざし、認知され、愛される努力を続けてきたことにあると思っています。たとえば、地域で店舗展開し地元の方とふれあうことで、私たちのことをより理解してもらうようにしてきました。また、シングルマザーや環境に恵まれずにちょっと道を外れてしまった方など、地域の就労困難者の雇用にも積極的に取り組んでいます。そんな風に、障がいのある方だけでなく、いろいろな困難者の姿に目を向け、それに気づいた人が動き出していけば、だれもが尊厳を持って生きていける社会を築くことができるのではないでしょうか。

私たちの考えと共鳴するのが「ソーシャルファーム」です。ファームは農場ではなく「社会的企業」という意味です。ソーシャルファームとは、生活困窮者の雇用を促進しながら、環境・農業・リサイクルなどで持続可能な社会に貢献していく。そこで得た利益を公平に労働者、株主、社会に分配・還元していく存在であると、私は捉えています。「周りにお願いばかりしている、なにもできない福祉」から脱却し「地域に必要とされる存在」へ。これからは、もっと地域のためになにができるかを考え、福祉事業所としての社会的責任を果たしていくことを目標の一つとしています。

障がい者の働く機会と場を創る支援の重要性 ~精神障がい者の生活・就労支援活動から~

東京家政大学 名誉教授、(社福)豊芯会 顧問

上野 容子氏

私は、長年、精神科のソーシャルワーカーとしてたくさんの精神に障がいのある方たちに寄り添ってきました。そこでわかったのは、せっかく治療が進み社会復帰できたのに「障がい者は働かなくて良い」そんな周りの偏見から、また病気が悪化し、病院に舞い戻ってしまう方が何人もいるという現実です。「それでもやっぱり働きたい」と願う彼らの切実な思いに応えるため、商店街の中にお弁当と喫茶の店を開業したのが、豊芯会のはじまりでした。

私たちは、働くことで社会にも他者にも認められ、自己尊厳を保ち高めたいと願っていますが、これは障がい者もみんな同じです。しかし、企業における障がい者への偏見の払拭や合理的配慮、理解はあまり進んでいませんし、ミスマッチもいろいろと起きています。現在、障がい者の就労支援形態は「一般企業への就労」と「福祉的就労」の二者択一しかありません。これからは、本人の健康や生活状況に応じた多様な職場づくりが必要なのではないでしょうか。その人の障がいを個性と捉えて良いところを伸ばしていく、そしてその特性に合わせた仕事や働き方をつくり出していく。それが支援者としてこれから追求していくべきことだと考えています。

その実現のために、いま私は、障がい者に理解を持つ人たちと一緒に働く場を創るソーシャルファームの普及に尽力しています。障がいのある方が、健康な人のところに仲間入りをするのでなく、互いに対等の立場となる、それが真のソーシャルインクルージョンだと思います。障がいのある方だけでなく、働きづらさを感じている多くの人たちが、互いの個性を認め合い生きていける社会を築くためにどうすれば良いのか。その結論は一つではありません。支援者も一緒にみんなで楽しく働き、創造的なものを生み出していく。その中で、障がいのある方たちの持っているいろんな力を発見できる喜び。そんなやりがいを感じながら、みなさんにも頑張っていただきたいと思っています。

実践報告 「自然栽培パーティ」は 障がいのある人をどう変えたか

(一社)農福連携自然栽培パーティ全国協議会 理事長 

磯部 竜太氏

自然栽培パーティは、奇跡のリンゴで有名な木村さんの一番弟子である佐伯さんが、自然栽培の素晴らしさをもっと多くの福祉施設に伝えたいとはじめた活動で、私は、2015年の立ち上げ時から携わっています。ヤマト福祉財団さんには、創設時よりいろいろな形で応援いただき、いまでは全国各地の70施設が、農家含めると111の団体が、私たちの活動に参加しています。

自然栽培とは、農薬や肥料を投入しないで、自然の力を最大限に活かして作物を育てる栽培方法です。肥料を与えると作物の身体は大きくなりますが、メタボ状態で病気になりやすく、病害虫も取り付いてしまいます。でも自然栽培は肥料を使わないのでその心配がない。農薬を使わないから土中には微生物がしっかりと息づき、その栄養を求めて作物はしっかりと根を張り、バランス良く育っていきます。つまり農薬・肥料などの余計な費用はかからず、美味しいお米や野菜を栽培することができるのです。

農業の良いところは、植え付け、種まき、ビニール張り、片付け、草刈り、移植、運搬などさまざまな障がいのある方が力を発揮できるたくさんの仕事があることです。しかも自然の中で働くのはとても気持ちが良い。農業で大切なのは、まずは楽しむという視点です。私が事務局長を務める(社福)無門福祉会の利用者さんたちも、小さな種から野菜を育てていく農業の面白さに夢中になり、生き生きと変わっていきました。そんな利用者さんを見ることで、職員も変わっていったのです。自然栽培は、質の良い農作物を育て、食や環境に貢献できる、生きていくことに直結する、地域社会にも必要とされる働きがいと可能性に満ちています。そんな喜びを全国のもっと多くの福祉施設にも体験いただきたいですね。

実践報告 「なごや招福肉まん」ができるまで

(社福)みなと福祉会 わーくす昭和橋 副所長 

岡本 靖史氏

現在、年間売上4万個の「なごや招福肉まん」ですが、これまで紆余曲折がありました。最初は配食サービスを行っていたのですが、なかなか軌道に乗らず月額平均給料は6,000円程度。それが現在は約3万円に上がり、利用者さんの人数も以前の倍の約40名に増えています。ここまでこれた一番の理由は、人との出会い。自分たちだけでなく地域の方と一緒に進めてきたからだと思っています。

名古屋市中川区は、日本の白菜のルーツといわれる「野崎白菜」発祥の地で、私は地元のブランド野菜商品開発研究会に参加しています。そこで「肉まんをやってみないか」と地元の期待を受けて肉まん作りをはじめたのですが、そう簡単にはいきません。そんなとき陳建一氏の兄弟子・錦城さんのご指導を受けることができ、本格的な中華まんを完成します。でも柱となる包む作業ができるのは職員だけ。利用者さんが作ってこそ意味があるのですが、なかなか難しい。それでも2年目に手先の器用な方が入り、包み作業を担当することに。すると、生地をこねる、袋にハンコを押す、チラシを入れるなどの、他の担当もどんどん決まっていったのです。

利用者さんが力を付けていくと可能性も広がりはじめます。「これからは多量に消費する時代ではない、目指すは究極の肉まんだ」と、より地元食材を厳選し、JAあいちの協力で名古屋コーチン、八丁味噌、愛知県産小麦粉などの地域食材を手配。自然栽培パーティとの出会いで、自然栽培で野崎白菜を自ら育てるようにも。また、点心マイスター協会のもとでレシピ改革を行い、水や酵母にもこだわりました。そんな私たちの商品作りと品質が認められ、農林水産省のフード・アクション・ニッポンアワードを2年連続で受賞。ネットでの販売は格段に上がり、楽天で1位にもなりました。いま思えば、肉まん作りは、いろいろな人につながっていった出会いの物語です。美味しい物には、国境も、障がい者も、健常者もない、そんなバリアフリーをやっていきたいと思います。

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